四半世紀の時空を超えて


坂井秀至碁聖との公開対局

                                             高野雅永 自戦記




雅永さんと
打ちましょう



碁吉会の20周年記念大会で、坂井碁聖に公開対局を「雅永さんと打ちましょう」と、
快諾していただけたと、父から嬉しそうな電話がかかってきたのは、今年の初めでした。

と同時に、アマとは滅多に打たれない坂井先生なので
一番驚かれたのが坂井先生の
 お母様だったそうです。

 思い立ったが吉日
トーナメント・プロに徹しておられる坂井先生に対局を強引にお願いするあたりは、
父の「思い立ったが吉日」的、あるいは猪突猛進的な性分の面目躍如といったところですが、
おかげで嬉しい驚きとなりました。



 

 豪華キャスト
その後、更に、矢田直巳九段が、「坂井さんがアマと打つのは聞いたことがない。
珍しい」と、当日の解説を買って出ていただいたと聞かされ、

これは大変な展開になってきたと少なからず、プレッシャーを感じ始めました。

もっとも、当日の大盤解説は前半・矢田直巳九段、後半・森山直棋九段、
聞き手・榊原史子六段、棋譜・
水野久美五段、時計・鈴木敬施五段と、
なんとも、アマとの対局にはもったいない豪華キャストで、変な手が飛び出したら、
解説にもにも苦労されるのでは?などと、ますます緊張感は高まりました。

小学生の県名人 
坂井先生には、私が社会人になって最初の勤務先となった
山一證券神戸支店の営業マンの時代に、三田のご自宅に押しかけ、
何度か打っていただいたことがあります。

当時、坂井先生はまだ小学生でしたが、
すでにアマチュア本因坊戦の兵庫県代表になられていました。


ただ、その当時は、
二人の棋力はあまり違わず、私が勝たせてもらったこともあったのですが、
坂井先生ご本人よりも、観戦されていたお父様の方が不甲斐無いといった感じで、
県代表の坂井少年に「こんな手はないだろう!」と、
叱咤されていた風景も脳裏に残っています。


「手談」の効用
今回は四半世紀ぶりの再会・対局となりましたが、その間の空白も、歳の差も感じず
(坂井先生と私は二人とも丑年ですが、ちょうど一回り違いです)、
昔のことを話したり、いろいろなことを思い出したり、不思議な感覚でした。
「手談」の効用とは、こういうものなのかと、少し分かったような気がしました。


坂井先生の強さ
対局前に坂井先生に、20年前と比べるとどれくらい強くなられたでしょうか?とたずねると、
「当時の自分よりは2目以上は強くなっています。
最近のアマチュアの県代表の方々との対局では3子では負けてません。」と答えられました。



 

背伸びを承知
また、20代半ばに自分の碁が強くなってきたという自覚した時があり、
碁を極めない方が、医学の道を中断する以上にもったいないと、
ご本人の気持ちもお父様も思いも一致されたようで、
その時、きっぱりとプロ棋士の道を選ばれたとお聞きしました。

改めて坂井先生の碁に対する情熱と、強い気持ちを感じました。

背伸びを承知で、手合い割りは3子でお願いする事となりましたが、
せっかく打っていただく以上は、少しは手ごたえを感じてもらえるような碁を打ちたいと、
気持ちが引き締まりました。


 白の後を追う序盤
序盤からつぶれるのはみっともないとか、足早に打ってみようかとか、
あれこれ考えながら小目に一間高がかりをしたものの、
結局は白の後を追うような形のような序盤となりました。


というよりも、置石を意識しないような厚い手を白の着手に対して、
黒は手を抜きづらい展開にはまってしまったと感じていました。派手な戦いはないものの、
棋理に合わない手を打つと、一挙に崩れてしまいそうな迫力を感じながら
中盤へと局面が進みます。






よろけながら、
優勢を意識



ハンディをもらいながらも、気分はがっぷり四つのようなイメージです。

序盤・中盤で自分でも打った直後に利敵行為と感じた黒20と白21の交換、
はっきりとした悪手の黒44と白45の交換、更に重そうだと思いながら打った手は黒40
迷いながら打った黒46、黒48などの温そうな手など、疑問手は多々ありましたが、
残念ながら、逆に、これは好手と自覚できるような手はありませんでした。

黒も手厚く打ち進めていたおかげで、中盤、大所(黒84、黒88)や、
小気味よい様子見(黒94)などを好い流れで打てる手順を得られたようで、
114のツメに回れて、優勢を意識しました。

後半も、はっきりとした疑問手(黒126のコスミ)などもあり、ヨロけましたが、
なんとか最後まで優勢を保てたようでした。


盤上の一手一手 
打っている最中は目算も形勢判断らしきこともしませんでしたが、
公開対局ということも忘れ、盤上の一手一手に集中することが出来たようです。

重い手も疑問手もありましたが、現状の自分の棋力を考えると、
思いのほか出来の良い碁だったと思います。



 

碁を打つ時間
仕事を言い訳に、碁を勉強する機会は滞りがちでしたが、
また将来、坂井先生に打っていただくに値するような棋力をめざし、
少しでも碁を打つ時間を増やしたいと思うようになりました。


一生の思い出 
少し、大げさですが、今回の対局は、私自身そして父にとっても
一生の思い出になる一局になったと思います。

快く対局を引き受けていただいた坂井先生、

解説をしていただいた矢田先生、森山先生、榊原先生、
記録をとっていただいた鈴木先生、水野先生、
感謝の気持ちでいっぱいです。

また、今回、碁吉会の皆様のご厚情で、
飛び入り参加のような私が坂井先生と対局させていただき、
また、ひさしぶりにゆっくりと碁を楽しませていただくことができました。
ありがとうございました







坂井秀至碁聖 vs. 3子 高野雅永

碁吉会創立20周年記念大会・公開対局

20101120日 パレスサイドホテル
持ち時間 50分切れ負け
198
手完  黒中押し勝ち