鍼灸に親しむ


2021年4月26日
                   高野圭介


 小さい頃、
悪いことをしたら「灸を饐えてやる」と脅かされたものだ。
 地獄極楽の絵図に「針の上の筵」があって、
悪人が裸足でその上を歩かされる。
 だから、針とか灸と聞けば、怖いものの代名詞で、
鍼灸:針灸というのは、逃げ出したくなるものだった。

 何時の頃からか、
「隠居の灸」が気持ちよさそうに見えてきていた。

春艾(モグサ)隠居の通ふ青けむり   虚石






齢九十ともなれば、足腰肘肩がおかしうなってくる。
動きにくい関節にくっついて、堅くなってきた筋肉が筋張り、痛む。

 按摩のモミモミと併用した鍼灸は針灸共に効果抜群!
モルヒネに浸かったよう。全身の筋肉が緩んで、
体の動きも実感を以て軽くなってきた。

うららかやツボから昇る薄けむり   虚石

 艾の火の燃えている時間は六分間。
チクチクと熱いが後傷は残らない。不思議だ。

春もぐさアチチの微震六分間    虚石



脛の内側がぐずんで歩行がおかしい。
脛に傷持つ身かどうか知らないが。

脛の傷春のもぐさに霧散して   虚石



注:艾の製法 (薬用)

 夏の蓬(ヨモギ)の葉を天日に干し、
綿毛を集めたものが艾であり、灸に用いる。

 また、これを煎じて飲めば、胃腸薬・喘息に効果があると言われる。

 蓬は、冬枯れの草々のなかに鮮やかな綠が映える。
三月三日・雛節句には欠かせぬ草