「後の先」

                                高野圭介


「後の先」


「後の先」という言葉がある。

相手が先に動き出す。動き出したら軌道は変えられない。
すると、後から動いて、先を取る。あざやかである。

口ではいとも易々と言える。だが、後の先ほど危険な技はない。
うまく決まれば綺麗な技だが、
一歩拍子を間違うと、己が切られることになる。
死の覚悟が出来ている者でなくては後の先は出来ない。
この世に未練があれば、一瞬ためらうことがよくあって、
それだけで、後の先はやられてしまう。

そこへ行くと、先の先は敵が仕掛けて、動き出す。
その前にその動きが分かって、
先手で押さえ、先に打ち込んで、成就する。

これは「剣の道」で、峰隆一郎が記述している。
峰隆一郎著『日本剣豪伝・伊東一刀斉』p.103


「いぶし銀」

 
普通、先の先を考え、そのような石立(布石)を実践するものだが、
中京の島村俊宏九段は「後の先」を駆使し、
「いぶし銀」の異名を取った。

考えてみたら、
盤上の石にはそれぞれ「一手の価値」というものがあって、
そんなに急ぐことはないはずだ。
しかし、後の先で甘んじることの辛抱が出来るだろうか。


「先の先」



打ち過ぎ



凡人には「先の先」を探し回ることがやっとのことだ。
先の先」は碁では一般に「先機筋」とも呼ばれ、
先手の箇所のことが多い。

だから、凡人たるアマチュアは先機筋を追う余り、
「アマは打ち過ぎて負ける」と言われ、
逆に「プロは打ち惜しんで負ける」と言われる。

事実、先手だからといって、
攻め過ぎたり、アタリアタリと打ち進めば、
アジ消しになったりして、打ち切った姿を呈して、
一局の碁を失うことが多い。


打ち惜しみ


一方、味を見ると言って、打ち惜しみ、
その味も活かせなくなったりすると、
負けに直結してしまう。