イナバウアー

-- Cool Bauty --

                                     高野圭介

inner bower?
イナバウアーを見たとき、こんな凄い技があるとは、と舌を巻いた。
 さっそく適当なスペルを想像してみた。inner bower.
つまり「内向きのお辞儀」のことかなと、判断した。
じゃあ、outer bower.って、どんな技かな?などど想像していた。

 だんだんその実態が分かってきた。

イナバウアーとは
そもそも、イナバウアーとは
旧西ドイツのフィギュアスケーター、イナ・バウアーが開発した技だ。
57年の世界選手権で西ドイツ(当時)代表のイナ・バウアー選手が披露した.

1ストローク中に長い距離、長い時間を同じ姿勢を保ったまま滑る
「ムーブ・イン・ザ・フィールド」の一つ。

ちなみに「イナバウアー」とはもともと、、足を前後にずらし、
 両足のつま先を横に滑る「スプレッドイーグル」を変形させ
一方のヒザは曲げ、もう一方の足は後ろに引いて伸ばした姿勢で、
つま先を外側に180度大きく開いたまま横に滑る技のこと。


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アラカワ・バウアー
荒川がトリノで見せた技は上体を反らしているが、
「上体を反らすこと」=イナバウアーではない。

だが、荒川の演技はあまりにも鮮やかだったため、
反らすことと、誤解している人も少なくないだろう、というのだった。

だから、仮称「アラカワ・バワー」のように、
アラカワの名を冠した名がいつかは冠せられる・・・と、期待している。

自然のままの凄味
荒川静香はこの難度の高いイナバウアーが成功しても得点ゼロ。
つまり、評価に入らないのを承知で、
観衆がきっと見たいだろう、というだけで演じたと嘯いている。

 彼女は終始冷静で、自然体だった。自然のまま凄味さえ感じさせた。

逆イナバウアー
新しい言葉が生まれた。

民主の平謝りは「逆イナバウアー」・・・と、自民・中川政調会長が皮肉った。

輝き続けたい
回を重ねる度に、オリンピック参加規模の、人数の新記録を誇ってきたわが
日本勢が、もし、彼女の金メダルが無かったら、日本のメダルがゼロだったら、
日本の経済が、停滞に入り日本中が苦難のどん底に陥ったかも知れないという。

 彼女の凱旋して、タラップから降りたとき、
「今後も金メダルのように輝き続けたい」と喝破した言葉が耳の底に残っている。

半目負け
女子500bスピードスケートで、惜しくも4位で入賞を逃した岡崎朋美は、
3位(中国)任慧の、1.16.87。
岡崎の、1.16.92。と、0.00.05分の差だった。

 男子アルペン・回転で、同じく惜しくも4位で入賞を逃した皆川賢太郎は、
3位(オーストリア)シェーン・フェルダーの、1.44.15。
皆川の、1.44.18.と、0.00.03分の差だった。


まさに無念のほぞを噛んだ。 他にも、もちろん微妙な鼻の差で、
半目負けを喫して敗退したのの多々あったことは言うまでもない。

惜しくも?
ただ、「勝つ」というのは、この極微の差を競り合い、克服して
勝利の女神に招かれるというものであることを知らねばならない。

報道ぶりもおかしい。 何という表現ぞ!
8人中7位でも、「惜しくも入賞ならず」という。

碁のジャンル
私たちの碁の世界でも、半目差の負けに、どれだけ多くの人が泣いたことか。

 中には、半目差の負けを読み切って、勝負手を放ち、
大敗を喫した実例も結構あるし、
半目差が規約の不備によるものと、規約の改正を求め、
勝負預かりになった事例もある。

この点が、中国で、碁をスポーツのジャンルに入れて、
日本の芸論、ないし福祉論と「競わない」を前提とするのと、
際だった対比を示していることも注目すべき事だ。


絶対評価

相対評価


ともあれ日本では、何事においても競うことは禁句とされ、
「勝負より協調」が優先されている。
たとえば、駆けっこでも、早さの順位より、完走の可否だけを問う、
という風潮が出来ている。

 この、比べないで、弱者救済という「絶対評価」が、
人を蹴落とす「相対評価」を軽視する教育を徹底していることに注目したい。

ひとりオリンピックだけに「相対評価」を求めることの愚を感じている。