(03)  未知という名の船

                                                    高野圭介
第 九
冬のある日のテレビで
黒柳徹子が合唱団員と一緒になって第九を歌っている。
よく見ると彼女は口が動いていない。まさかと驚きだった。

 音痴を自負する私は音楽とかカラオケに縁遠い。

だから唯一歌える歌を覚えたいと、
懸命に覚えた歌が「第九」だった。
第九の話なので、反射的に耳を傍立てた。



子守歌
 彼女が「子守歌は母の背中で聞いた第九だった」と言っていたのを想いだした。
 歌の後の彼女のインターヴィューがすばらしい。

「私が覚えたうろ覚えの歌詞が ダイネツアウベルビンデンビデル・・・・・
(赤ちゃん言葉のドイツ語が早口でどど・・と一気に駆け抜ける)だったもので、
まともに歌えなくて。それ故にか、音楽学校の先生から歌うなと言われまして」 

これにはこちらがたまげた。

モーツアルト


 そして又、アインシュタイン
「私が死ぬということはもうモーツアルトが聴けなくなることだ」と言った。

私はもう一つレパートリーを拡げ、モーツアルトに傾聴している。

 暖かい春日和の中、うららかな小春日和の小道に
モーツアルト弦楽四重奏曲十一番のメロディが流れてくるではないか。

 歩を進めるとなんと幼稚園だった。シンバルやタイコに合わせて、
園児たちが「未知という名の」と元気に歌いだした。



未知という名の船に乗り

モーツアルトの
幼稚園児の替え歌


未知という名の船に乗り 希望という名の地図を見て
夢という名のコンパスで 未来を訪ねる冒険者

心に鍵はかからない いつでもいっぱい開いておけば
遥か銀河の彼方から 未知という名の船が着く

ちよっと不思議もちよっと疑問もちよっと悩みも訪れる
サバダバダバダ サバダバダバダ

未知という名の船に乗り 勇気という名の帆を張って
愛という名の舵を取り 僕らは漕ぎ出す冒険者

心はいつもパノラマだ 楽しい世界を描いていれば
どんな小さい窓辺にも 未知という名の船が着く

ちよっと不思議もちよっと疑問もちよっと悩みも訪れる
サバダバダバダ サバダバダバダ


玄々の世界

 いつか、園児にとってモーツアルトが唱歌になり、
「未知という名の希望」が座右の銘となったら、どんなにすばらしいだろう。

 私はぜひこのすばらしい園児たちに碁器セットを贈り
園児達と共に未知の船の上で碁仙になって、
サバダバダバダと、玄々の世界に遊びたいと思う。