GORS Winny

                                          高野圭介

 この三月、碁吉会の池田大会で、草鹿庸次郎先生の
コンピューターは人の心を理解できるか」という講演を聴いた。

 何でも真空管時代のコンピューターから集積回路・マイクロチップのコンピューターになって、
記憶力は半永久的なのに加えて、急速に超小型化、高性能化が進み、
人智を越えた計算能力、解析能力は人間にとってどれほどか
便利な物品が創作され、便利に福音をもたらしたであろうことか。したがって、
 今やコンピューターが人間以上の能力を備えている分野も相当。もはや
人間とコンピューターの相互介入が始まっている、と言ってよい。

 ただ、未来展望として、脳(brain)と電脳(computer)がアトムのようにサイボーグしたり、
ソフトの使用などで、互換性をもって、理解し合うなどについての話までの言及はなかった。
おそらく今なおSFの世界なのだろう。

 コンピューターに限らず、人間の作ったもので、人間と同様なものと言えば、
社会の制度だって、アメーバーのように生きている。会社、組合もその一つである。
自然人たる人間の人格と、会社の法人格はほとんど同じ扱いを受けているし、
政党だって、市町村の行政だって、同様の人格を持っているではないか。

 どの組織も人間同様、登記され、認知され、社会に義務を感じ、責任を負う
生きたり死んだり、叱られたり、褒めて貰ったりすれば、栄誉とし、瑕疵とされ、
組織の喜怒哀楽や勢い、衰え、活力なども感じ取られるではないか。
やがて、コンピューターによるコンピューターのロボット支配も生じ
ロボット人格を持つようになるだろうか。

 突然ある日のこと「ファイル交換ソフト・Winny 」の登場である。

Winny は他のコンピューターから黙って、映画や音楽やいろんなデーターを
分からぬように堂々とコピーしてくる。
このルパンのような窃盗犯は悪の権化そのものの Winny だが、
極悪人間でも、どんな凶悪犯でも教育によって更生させられるから
死刑廃止(応報刑に対する教育刑)、と主張する「死刑廃止論者」がいるように、
Winny を再生して、せっかくの能力を活用して生き行く道を開こうと考えた。

 その道を暗示する挿話がある。

 かって拙宅で、京大のスキー部の学生の卒論が「白蟻の研究」と、聞いた。
白蟻は家を食い潰すので、害虫だから、この駆除法のことかと思った。
ところが聞くほどに驚きに変わっていった。

 かいつまんで言うと「白蟻はセルロースを喰うて、体内で動物性蛋白質に換えている。
だから、白蟻の体内にある特殊な酵素を利用してセルロースを分解して、
蛋白質を合成したい」これを直裁に言えば「白蟻から人工肉を作る」ということだった。

 私は碁の学習には碁書を読むのがいい。もし、読むのがたいへんなら、
碁書に接する機会を多くするために、碁書を枕の側に置いて寝たらどうか、
たまには本を手にすることもあるぞ、よしんば読まなくても、枕の下に置けば
睡眠中に枕を通して、活字や変化図が脳に進入してくる・・かも、と示唆した。

 何かおとぎ話に似て、一笑に付す人も多かったが・・・

 今、はっとひらめいたのは発想の転換・Winnyの活用である。
到底私にはできないが、Winny を活用して、高段者の脳から
素晴らしいコピーを戴いてくることに貴重な思考を巡らした。

 出来ない!などというのは、しない者の戯れ言で
出来ないことをしようとする執念で、逆説の発想にこそ価値を見いださなくてはならない。
だいたい世の中の進化は想像もつかない仮説が
現実のものに変わっていく課程は認識されないものだ。
しかし、いつの間にか変わってしまっている。

 Winny の活用
とは、GORS 信奉者にとって、何という福音ではないか。
このプログラムをGORS Winny と呼んで、同調者を募ろうとした。

 この話を聞いた万年努力者はもう現実のものとして、
実験台一号を自薦してきた。
「じゃあ、私の脳の中に、GORS Winny の受け入れやすい
環境づくりをどうするのか、早く教えてね」
彼女の眼は希望に輝いていた。