俳句吟詠十訣

                        高野圭介(虚石)

 
吟詠十訣

について


 私が俳句の手ほどきを受けてから四半世紀。
昨今では、交友句会丸四年。淡水句会丸二年と
盲滅法に取り組んできている。

俳句百年の今、
誓子の帰結された知性による十七音の詩の構成論に接し、
私が想定もしなかった俳句論と、心底驚愕した。

ここに「俳句とは何か」
「俳句吟詠の要点は何か」を自分に訊ねた。
そこで、俳句の吟詠に際して遵守すべき要訣を
十項に集約し、「俳句吟詠十訣」とした。





俳句吟詠十訣

高野虚石 作

 1 写生とは発見・描写

 知識や教養によりかかった月並俳句ではなく、
身近な自然の移ろいに目を注ぎ、客観写生をする。


2  自然の変化に
ときめく


折にふれ、日常の自然の中に逍遙する。
旅行中など環境の変化で、

新鮮な事象に遭遇する。身も心も愕き、ときめく。

3.取り合わせ技法で 
感動は心の形容詞ではなく、"二物衝撃”で
句に味付けをする。

視点を一点に絞ったり、複数にしたりもする。


4..季題
( 参照:歳時記・序文)


四季の循環、宇宙の現象に心を傾ける。
花鳥諷詠のときである。

四季折々の自然を象徴する季を優位せしめる。
参照:無季の句。



5.五七五の定型

 

日本語の美しさ。それは七五調の先天的なるもの。
それは五七五の十七文字。 参照:自由律句。


6 切れ字は
  俳句の骨格


「や」「かな」「よ」など、切れ字の切れ味はひと言で言得て妙。
言葉は短い。意は長い。リズム良く、三段切れは不可。

 7 単純化と具象化

言いおおせて何かある。
言葉を削ぎ落として単純化する。

心をむき出しにしないで、考えを具象化させる。


8 平明に叙す
 

十七文字のなだらかな調子。省略し、調子を整え
冗長を避ける。
 平明にして余韻ある句。

9 俳句らしさ
 

  俳句の「俳」は誹諧の発句。
俳句には独特の調べがある。

品格のある句は格調を高める。
まさに、深は新なり。壺中の天地。


 10 良き師・良き友

 吟詠に独り苦吟し、独り酔うもよし。
師のご指導で自分を磨き、

吟行や句会などで俳友と論じ合うもよし。



「写生して、

平明に叙す」


 分類と言えば、昔から「ヨミ・カキ・ソロバン」と言った。
オリンピック(Olympic)では、より早く(Faster)
より高く(Higer)より強く( Stronder)を競うものであります。


 英検では英語の言葉の分類を四つに分けている。
この英検分類を俳句の要点に分析・適用して
『注()は俳句』、起承転結に提示したい。



 1.Reading.・・・・・ヨム力 ・・・(写生と発見)。

2. Listring・聞く力 (心の感動は物に置き換える)。

3. Grammer・・構成の原則・・(季題・十七文字)。

4. Composition・作文の力・(調べよく平明に叙す)。


 果たして吟詠の実践に際しては、ここに羅列した多くの要点で
点検は煩瑣なので、重点的に「写生して、平明に叙す」の
二点に視点を置くことにした。この二点を詳説します。


1.写生する
俳句は物や風景をよく観察して、そのありさまを絵のように
十七文字の中に写し取る文芸だとも言われます。

このような俳句の作り方を「写生」と呼びます。


 後藤比奈夫は
「客観写生とは心で作って心を消すこと」と述べています。
難しいですが、「作意が透けて見えてはいけない、
自然のありままをもっとも適した言葉で表現するのが良い、
そのために作意の痕跡を消せ、ということです。

作意を消しても、そこはかとなく、
作者の心の動きが見えるような句が名句となるのです。」というのです。


2.平明に叙す
 平明にして余韻を残す。
如何に言葉を省略して、如何に調子を整えるか。
十七文字のなだらかな調子で、もし、
調べを成さぬような言葉を並べるだけというような
冗長は避けるべきと。

 つまり、喜び、驚き、悲しみなどを言葉少なに伝える。
しかも、形容詞、形容動詞などでなく、
取り合わせ技法で表現する。


 

吟詠のチェックポイント

虚石 詠


1.観察は形から本質を探り、心にときめきを感じる。


2.心に浮かぶ形容詞を消して、具体化して表現する。



3.言葉は余韻を残しながら省略し。単純化していく。


4.なだらかな調子で表現を平明にし、整えて句を作る。







習作三句 「浜茄子の花」

2021年7月26日 吟詠



払はれし浜茄子宙に塵の翳    虚石

子雀の咥えし浜茄子彩りて        

踏まれても何くそくらへ浜茄子草