Gブリュッセル


 機内で碁を打っていると、どこからか蝿が一匹、ぷーんと五月蝿い。
隣の池本愉美子女史が「何でここに蝿が居るの?」と言う。
私はすかさず「フライ中だから」と。
ハイ、座布団一枚。

   成層圏蝿の棲家に囲碁三昧

 蝿の話は実にたわいもない会話と思っていた。
帰国後のこと、それから旬日を経ずして読売の夕刊に載った記事。
題して「マラリア、飛行機が媒介」
いわく「世界保健機構(WHO)は2000年8月22日までに、
マラリアを媒介する蚊がアフリカから航空機で欧州諸国に運ばれ、
空港周辺の住民がマラリアに感染しているとの報告を発表した。
その「空港マラリア」は1969年から1999年の30年間に
欧州12ヶ国、87件に上っており、
地域別では、フランスの26件、ベルギーの16件、他となっている。

 無心に飛ぶ蝿を見つけて、「なぜ、お前はここに居るか」と
日本語で蠅に問うた池本女史の感性に改めて驚いている。

   プラタナスEU本部旗なびく

 ブリュッセルはベルギーの首都というのみならず、
EU(欧州共同体)の行政機関が置かれ、
今やEUのワシントンDCといっても過言でない。
それだけに市内全域がビルラッシュで、ユーロの中核、
ベルリンにも劣らず様変わり中である。

 古皮の中に新酒をというならば、
ここブリュッセルは古い歴史のど真ん中で、
天下を変えたナポレオンのワーテルローの戦いの丘がこの郊外にある。
 市内のグラン・プラスは世界文化遺産。
たまたまその隔年に催されるフラワーカーペットの祭日に当たっており、
賑やかな歩道を練り歩いたのも望外だった。

   ライオンと子供の像に二重虹


異質文化

 そもそも碁は芸か、スポーツか、あるいは福祉のジャンルかということを
考えたことがある。しかし更に新しい観点から「(修業)道」がある。

 日本の文化は世界に類を見ない様式美に満ちている。
たとえば相撲。他のモンゴル相撲、レスリング等の
酷似のスポーツに比してずば抜けており、
邦楽の演奏と洋楽と比較して、
邦楽は無言の静けさから、いきなり演奏に入る。
しかし、洋楽はギーギーと音合わせがある。
これを見苦しいと感じるのは私がおかしいのか。
日本の足付き碁盤碁笥も美しい。

 それでも、西洋には様式を超えたマナーのよさがある。
それは「人に迷惑をかけない」「公共心」等などの
いわゆる「躾」が生まれながらに出来ている。
これは自然な心の動きで現れると言ってよい。

たとえば碁を打つとき、煙草の煙を顔にふっかけるとか、
扇子をやたらぱちぱちやるとか、
相手の思考を妨げるようなことは許されない。
相手の申告で反則負けになることもありうる。

碁にも東西異質文化の交渉の場がある

 打ち水のこんなところに小便小僧