「花 び ら」

                                                 高野圭介

虚の部分  
太極拳は決めては緩む。套路には山あり谷あり、見せ場あり。
天を突くような華やかな見せ場には地味ともいえる虚の部分があってこそである。
またその入れ替わりの部分が難しい。

花びらを踏む
佐藤靖子先生は足を置くのに「花びらを踏むように」と言われる。
ゆるりと等速の動き、あるいは
どすんと重みのかかったような衝撃の動きはしないとの指示か。
「可憐な花びらを踏みにじらないように」というこの表現は心憎い。

花びらの間を
一般にスポーツはより早くより高くを競い合う。
でも登山家がオーバーハングの岩登りのとき大胆にして細心。
そろりとしっかりと足を踏み固める。
アイススケートの疾走を思い浮かべたら、絶対踏みにじってなんかいない。
花びらの間を剃刀の刃で切るようにすり抜けているのか。

動くとも
動かぬとも
なく
 
動くとも動かぬともなくいつも動き、全身が変わってゆく太極拳は
あまり他のスポーツには類のない動きだろう。

 兵庫県には「のじぎく賞」という善行賞が制定されている。
野辺に楚々とひたすら可憐に咲きつづけるのじぎくの花。

無為不待
 無為不待

    人里はなれた谷間の百合の花は 誰にもみてもらえないのですが
少しの駆け引きもなく 精一杯の美しさで咲きます
このような純粋な行為を仏教では無為不待というそうです

                                 みつを