歴史のるつぼ・トルコ


                                    馬場宏三

 ジャズ歌手故江利チエミのヒット曲「ウスクダラ」の舞台は
トルコ第一の都市イスタンブールにある。
元職場の友人から「行ってみる価値がある国だ」と強くすすめられていたので、
2004年6月、そのトルコへ旅行する機会に恵まれた。

 トルコ共和国の面積は日本の約2倍、アジア(97%)とヨーロッパ(3%)にまたがっていて、
人口は日本の半分。人種はトルコ民族。

歴史を遡れば
その源流は6世紀初、中央アジアに発するモンゴル民族・突厥が
南下して移住したものと言われる。
この地には紀元前20世紀〜
前12世紀にヒッタイトが進入し、
馬と鉄器での優越した軍事力を背景に、大帝国を築いた。
やがて、ペルシャの進入(前5世紀)、マケドニアのアレキサンダー大王の東征、
ローマ帝国の分裂により東ローマ帝国の首都が
コンスタンチノーブル(=イスタンブール)に置かれた(前330年)
回教国セルジュークトルコ(1038〜1157
)、オスマントルコ(1299〜1922)など
長い歴史の歩みの中で多くの民族の興亡があり、多くの民族の血が混じっている。

 トロイ戦争と木馬で有名なトロイア遺跡はトルコの最西部小アジアにある。
ドイツ人シュリーマンが子どものとき、ホメロスの叙事詩を読んで、
大人になったら必ず「トロイア遺跡」を発掘すると心にきめ、
1875年、夢が現実のものとなった。

トロイ戦争

スパルタの王妃ヘレネがトロイアの王子パリスに誘拐されたことに原因し、
彼女を奪還するため、ギリシャ連合軍がアガメムノンを総大将に10年間の
攻囲ののち、木馬に兵を潜ませる奇計を用いて
トロイアを破壊したという伝説的な戦争である。

真実は小アジアの豊かな土地を奪取するのが目的だったとの説がある。
遺跡は前3世紀(青銅器時代)から5世紀まで九層の複合遺跡が確認され、
今は世界遺産に登録され、国立公園になっている。
今年になってアメリカ映画「トロイ」が放映された。
無敵の剣士・アキレスを青春スターブラッド・ピットが演じていた。

 クルト人はアラブ人、ペルシャ人と並ぶ中東における三大先住民族であり、
固有の言葉と文化を持っている。
第一次大戦によって、オスマントルコが崩壊後、連合国(英仏伊など)は
クルディスタン(クルド人の地)と呼ばれる山岳地帯の独立を約束していたが
ローザンヌ講和条約では全く無視され、独立は流れて、
トルコ、イラン、イラクなどに分断された。

人口は推定約2,500万人とされ、そのうちトルコには1,300万人が居住している、
トルコ人口5.000万の4人に1人はクルド人ということになる。
自分の国を持たないクルド人は過酷な人種差別に苦しんできた。
政府の単一民族国家政策のもとで、クルド後の使用が1991年まで
禁止されていた時代があった。

そのような状況の下で、独立を目指す武力勢力・PKK(クルディスタン労働者党)は
東部の山岳地帯と国の周縁部を根拠地にしており、
警察や国軍と激しいたたかいを繰り広げている。

 これまで日本に紹介されたトルコ映画は数は少ないが
クルド人問題をテーマにした映画が多い。
1982年、カンヌ映画祭グランプリを受賞した「路」はクルド人のギュネイが監督した。
物語は5人の囚人が期限付きの休暇のような仮出所の機会を与えられて
家族に面会に行くという五つのエピソードをまとめたもの。

今年封切された映画では「少女ヘジャル」は感動的だった。
イスタンブールで孤独な生活を送る元判事ルファトが住むアパートを
武装した警官が襲い、隣人一家が皆殺しにされある。

イスタンブールでも首都アンカラでも,
バスの窓から丘にびっしり建てられた仮設住宅の連なりが見えた。

通貨・経済に論及すると、
 所得水準は日本の約10分の1。平均収入は大都会で1200ドル(15万円)、
家賃はその3分の1.
トルコは男性社会だが女性も働くようになり、共働きで25万円。
田舎で800ドル(9万5千円)。6〜7
年前迄年率95%という猛烈なインフレに見舞われた。
軍事費負担による財政圧迫が大きいと言う。
通貨はトルコリラで旅行中交換したら1ドルが143万6千リラだったので驚いた。
そのことは買い物の都度実感した。
最近は経済状態が改善されて04年度成長率は4
%で、
05年11月から通貨を100万単位切り下げることに決まっている由である。

EU問題は

2004年5月1日、EU(欧州連合)は旧ソ連圏の諸国など15カ国が
更に加入し、25カ国に拡大、
総人口4億5千万人、GDPで米国に匹敵する政治・経済ブロックに発展した。
トルコはヨーロッパの一員になることが長年の悲願であり、
このEUへ1987年4月加盟申請し運動してきたが、今回も認められなかった。
理由は地理的の97
%がアジアに属すること、クルド問題などの人権問題、経済不振
ヨーロッパはキリスト教社会であるが
トルコは99
%イスラム教徒であることなどと言われている。

 私たちの観光時間は一週間に過ぎなかったが、
歴史発展の中で民族の興亡や異なる宗教(キリスト教とイスラム教)の関係に
少し触れた思いがした。

東部がイラクに接していてトルコとアメリカの密接な関係から
テロの可能性があるとして、
行先での自由行動が認められなかったのが残念だった。