「ごっつい手」に賭けた山下の棋聖戦

棋聖戦第6局の敗戦に直結した百も承知の筋悪と悪形



                            高野圭介ネット観戦記

 自分で転んだ  
私は山下敬吾の大フアンだ。山下への声援は誰よりも声が高い。

山下の飽くことなき闘争は「撃ちてし已む」という碁に徹して応援団を魅了する。
その山下が棋聖戦七番勝負で井山裕太に敗れ、遂に涙を呑んだ。

井山の強さが光ったと言えば、その通りなのだが、
山下の敗因を探ってみて、私は納得行くものがあった。

残念ながら、山下は自分で転んでいる。その解明に挑戦する。




アジ悪の厚み
ところが、筋の良い手しか浮かばないという天才・井山には通じなかった。
本譜の進行、黒75手迄、白はアジ良く打っている。

一方黒は傷が目立ち、肝心の厚みの壁がアジ悪で危ない感じ。
ともあれ、白は優位を自覚していたに違いない。

 いったい、どこでこうなったのか、それを探ってみた。


参考図 01



 悪筋・悪形が三つ
上記・参考図01をご覧下さい。

黒28は「アキ三」。黒48も「アキ三」。白51の「ケイマの突き抜け」
これだけ悪筋・悪形が三つ、立て続けに現れている。


碁が合理性と能率の追求という観点からすれば、
これだけの無理筋・悪形をなぜ取ったか?疑問に思う。

 


参考図 02

 一般の発想を却下
 では、どうするか?
 羽根直喜九段が推奨した上記参考図02は検討陣も予測していたと聞く。

さもあらん。
普通の進行である。碁では普通の手は良い手であり、一般の発想であろう。

 では、この普通の良い手で勝てるかといえば、そこが問題で、
山下は百も承知で、この一般の発想を敢えて却下した。

常識的という「やわい手」では飽き足らず、
最高の手の追求をごつい手に求めたものとしか思えない。

 一瞬の気迫
鬼手、奇手などは、思いつかなかったという隠れた手などの中から、
余ほどその場でピッタリという光るダイアのような一手ぐらいだろう。

 思うに、白44が運命を左右する「光輝あるダイアたるべし」と猛進した。
結果は 嗚呼、山下は天を仰いだことだろう。
敗因は
この一瞬の気迫にしか思えない。

結果は残念だったが、山下の心底、悔いることなしと、
今となってはさばさばしていることと思う。