入る時に要らぬものなあに

                                                     高野圭介

「なぞなぞ」

??


少年の頃「なぞなぞ」が面白かった。
「湯を沸かす時生えてくるものなあに?」・・・湯気。
「まるまる太っているのに空を飛べるものなあに?」・・・風船。

その中で、何とも面白く、未だに記憶に新しいもの・・・

「いらんときにいって、いる時にいらぬものなあに?」
何?

「入らない時には要って、入る時には要らぬものって?」

おお、風呂の蓋!


風呂の蓋
論議



要らない時には銀行は使えと言う。
要るようになると、銀行は無いという。


 折しもニュースが飛び込んできた。
「連合(日本労働組合総連合会)の賃上げ要求」。
「景気浮揚のための、財政の3%削減を撤廃要求」。

  経済の活性化を巡って、政府と企業者(経団連など)。
企業と銀行。企業と労働者。労働者と消費者。

これらの関係はジレンマに陥っているもの同士が
相手の困惑がよく分かっているにもかかわらず、
自己の立場を考えると、主張せざるを得ない。

 賃上げと首切り。消費と賃金カット。雇用と不況。
 緊縮財政と公共投資。消費税と地方交付金。

まるで風呂の蓋論議で、
二律背反の世界をどのような舵取りで纏めていくか。
知恵の出し合い感がある。

一過性一本道
 さて、小林光一の地下鉄の碁と、武宮正樹の宇宙流
結局は同じことをしている・・とは苑田勇一九段の弁。

 
一局の碁に、模様を囲んで地にするか、這入らせて戦うか?
あるいは地を先行して、相手の模様を消すという、アマし戦術。
 それも一貫性を持てと言い、一方では調和を保てという。


 女の道は一本道とか。碁の道も一過性一本道。


おかしみ問答
人の世の碁に纏わるおかしみ問答を、お楽しみ下さい。

個中の味
床の間の前に碁盤を中に据えて、
迷亭君と独仙君が対坐している。

「ただはやらない。
負けた方が何か奢るんだぜ。いいかい?」
 と、迷亭君が念を押すと、かう言った。

「そんなことをすると、折角の清戯を俗了してしまう。
かけ杯で勝負に心を奪われては面白くない。

成敗を度外に置いて、
白雲の自然に岫を出で冉々たる如き心持ちで一局を了してこそ、
個中の味はわかるものだよ」と独仙君。

「また来たね。
そんな仙骨を相手にしちゃ少々骨が折れ過ぎる。
宛然たる列仙伝中の人物だね。」

中略


碁石の運命
人間の性質が碁石の運命で推知する事が出来るものとすれば、
人間とは天空海濶の世界を、われからと縮めて・・・


呑気なる迷亭君と禅気ある独仙君とは・・・云々

中略

死ぬばかり
「迷亭君、君の碁は乱暴だよ。
そんなところに這入ってくる法はない」

「禅坊主の碁にはこんな法は無いかも知れぬが、
本因坊の流儀にはあるんだから仕方がないさ。」

「しかし、死ぬばかりだぜ」

中略



花道から
駆けだし


「這入って、失敬仕り候。ちょっとこの白を取ってくれ給え。」
「それも待つのかい」
「ついでに、その隣のも引き上げてみてくれたまえ」
「づうづうしいぜ、おい」

「Do you see the boy か。ーーーなに君と僕の間柄じゃないか。
そんな水くさいことを言わずに、引き上げてくれたまえな。
死ぬか生きるかという場合だ。
しばらく、しばらくって、花道から駆けだしてくるところだよ」

 以下略


『吾輩は猫である』   夏目漱石より