武蔵の長い太刀こそ石の高さ

                                                          高野圭介


     武蔵21歳が吉岡清十郎と決闘のこと。         

武器の長さが制する 
決闘は手にした武器の長さが制するというのが武蔵の体験上の哲学だった。

吉岡は慣れた3尺ないし3尺5寸のはずだから、4尺の木刀を用意した。常に5寸以上長い。
一刀の下に勝敗が決する、先に一撃当てることに専念すればいい。
先に当たれば相手の全身から力が喪われ、振っている刀は勢いをなくする。
つまり先手必勝だ。

そのために握りを良くし目方を軽くする。そのために、
握りは太くしたまま、刀身を削りに削って、400匁から330匁まで軽くした。

 実戦勝負
さて、実戦である。

清十郎は人を切ったことがない。袋竹刀の延長線上のアマアマ剣術である。
一方、武蔵は真剣で、命のやり取りの修羅場を潜ってきた。その違いも大きい。

武蔵は木刀を地面と水平にさいてしまえば、長さは見当も付けられない。こうして短く見せた。
清十郎がアッと思ったときは、武蔵の間合いは先に詰め、彼の脳天に迫っていた。

 早い太刀さばき
助っ人も居たが、腰の引けた弟子達に、
早い太刀さばきは結果は火を見るより明らかだった。

(柘植久慶「宮本武蔵十二番勝負」より)


     高い石こそ碁の哲理を貫徹出来る。           

布石では、自陣を大きく 
碁の構成には勢いが有利だ。打たれ強いのはすでに負けている。

布石では、自陣を大きく見せるのが第一。
だから、布石では立体的に組み立てる。天王山がトドメだ。

獣が群れを守り、統率を取り、雌を独り占めにしなければ追われる。
たてがみを立てたり、羽を大きく広げたりして自分を大きく見せるのと一緒だ。

 中央の石は価値が高い
隅の差し手争いは定石の収まり形だけでない。

一歩でも中央にある石は価値が高いことから、定石は組み立てられている。
したがって、相手より中央指向して、圧迫態勢が取れているかどうかが問題だ。

そのためには収まり切らなくてもよい。封鎖態勢が出来たかどうかだ。
そのためには、何時どこで手抜きをするか!

石の高さこそ一局を制す 
中盤の戦いから地は勝手に付いてくる。
棋理に反しないよう腰を引かないで、気合い良く戦うて、地を生む一手。

私は白の打ち方を模索している。私は武蔵ではない。
だが、
武蔵の太刀の長さは石の高さで、石の高さこそ一局を制すという哲学を信じよう。

高い石は攻めに強く攻められにくい。
部分的に先番を貫く。これで後手番でも先番と同じ打ち方があるはずである。
刀身を長くして、先手必勝を考えると言うことである。

(高野圭介・囲碁観)