野中の薔薇



                                                高野圭介

中山典之プロ 
中山典之プロが2010年2月、他界された。

2009年11月、虫の知らせか、
私は千葉のご自宅に伺い、布団を並べて一夜を過ごしました。

中田良知棋友からのメールで、
いすみ囲碁ジャパンの内久根さんのテンコレ先生の追悼碁会の案内が届きました。
日時:3月6日(土)午後1時~.場所:いずみ囲碁ジャパンです。
是非参加したいが、日にちに無理があって、行けないのが残念。


あれやこれや先生のことをいろいろ思っていると、2005年7月、
先生とオーストリアのチロルへご一緒したときの、
あの情景がありありと浮かんできた。




チロルの思い出


当時の様子が棋友・塩沢孝子女史の記述で残っている。

「また、別の日、
混浴の風呂の中でベートーベンの第九♪♪を歌っていた
高野さんの前に、別のドイツ美人が入ってきた。

よく見ると、今さっきサウナ風呂で、ツタンカーメンが横たわっているように、
風にそよぐ葦のすっぽんぽんのままのご婦人だった。
二人で第九を唱和した。

その夜、
碁を打っているとき、その風呂友達の彼女が現れて、
高野さんと二人で
「野薔薇・Heidenroeslen」の合唱が始まった。

「Sah ein Knab' ein Röslein stehn, ♪♪
・・・童は見たり野中の薔薇♪♪・・
Röslein auf der Heiden,♪♪」
・・・・・・・・・・・・・

歌が終わって、
彼女の差し出した名刺には「Heide Krantz」の名があった。
彼女はチェロの名手だったのである。」

ゲーテの作詩
さて、その「野中の薔薇」のことである。

シューベルトやウェルナーの作曲による「野バラ」の歌が怖い歌なんだよ。
そんな話をふと思い出した。

どんなに怖いのかと、調べていると、ゲーテの作詩と分かった。
ドイツでは150以上の曲が付けられているそうな。

ゲーテについては「ファウスト」「若きヴェルテルの悩み」から、
ベアトリーチェに私が叶わぬ恋心を感じたり、「若き飢えてるの悩み」とか
「ギョエテとは俺のことかとゲーテ云い」など言っていたものだ。


ポピュラーな
「野中の薔薇」

訳 近藤朔風


童(わらべ)はみたり 野なかの薔薇(ばら)
清らに咲ける その色愛(め)でつ
飽かずながむ 
紅(くれない)におう 野なかの薔薇

手折(たお)りて往(ゆ)かん 野なかの薔薇
手折らば手折れ 思出ぐさに
君を刺さん
紅におう 野なかの薔薇

童は折りぬ 野なかの薔薇
折られてあわれ 清らの色香(いろか)
永久(とわ)にあせぬ 
紅におう 野なかの薔薇




原 詩

HEIDENRÖSLEIN 


Sah ein Knab' ein Röslein stehn,
Röslein auf der Heiden,
War so jung und morgenschön,
Lief er schnell, es nah zu sehn,
Sah's mit vielen Freuden,
Röslein, Röslein, Röslein rot,
Röslein auf der Heiden

Knabe sprach: Ich breche dich,
Röslein auf der Heiden !
Röslein sprach : Ich steche dich,
Daß du ewig denkst an mich,
Und ich will's nicht leiden.
Röslein, Röslein, Röslein rot,
Röslein auf der Heiden

Und der wilde Knabe brach
's Röslein auf der Heiden ;
Röslein wehrte sich und stach,
Half ihm doch kein Weh und Ach,
Mußt' es eben leiden.
Röslein, Röslein. Röslein rot,
Röslein auf der Heiden.

直 訳
少年が小さなばらを見つけた
野に咲く小さなばら
みずみずしく さわやかで美しかった
間近で見ようと駆け寄って
嬉しさいっぱいで見とれた
小さなバラ 小さなバラ 小さな赤いバラ
野に咲く小さなバラ

少年は言った 「お前を折るよ、
野に咲く小さなバラよ」
小さなバラは言った 「私はあなたを刺します
あなたが私のことをいつまでも忘れぬように
そして私は傷ついたりしないつもり」
小さなバラ 小さなバラ 小さな赤いバラ
野に咲く小さなバラ

それなのに乱暴な少年は折ってしまった、
野に咲く小さなバラ
小さなバラは自ら防ぎ、刺した
苦痛や嘆きも彼には通じず
それは折られてしまうとは
小さなバラ 小さなバラ 小さな赤いバラ
野に咲く小さなバラ

意 訳
野にひともと薔薇が咲いていました。
そのみずみずしさ 美しさ。
少年はそれを見るより走りより
心はずませ眺めました。
あかいばら 野ばらよ。

「おまえを折るよ、あかい野ばら」
「折るなら刺します。
いついつまでもお忘れないように。
けれどわたし折られたりするものですか」
あかいばら 野ばらよ。

少年はかまわず花に手をかけました。
野ばらはふせいで刺しました。
けれど歎きやためいきもむだでした。
ばらは折られてしまったのです。
赤いばら 野ばらよ。






「五年生の音楽」
(文部省)


 

わらべは見たり 野中のばら
あしたの野べに きよらにさける
ゆめの花よ
くれないもゆる やさしのばら

わらべはよりぬ 野中のばら
とわのなげきを とげにひめし
花のあわれ 
くれないにおう いとしのばら

わらべはおりぬ 野中のばら
あどけなき子は 花の思いも
知らでつみぬ
くれないかなし ちいさきばら