詩吟の通信簿 甲乙を付けねばならず、付けてはならず。 高野圭介 |
|
雅堂流の指南 | 山崎町の町中にお触れが回った。 このたび、小林善太郎さんが吟道・雅堂流の師範になられました。 小林さんの言われる趣旨によると、 「師範というのは弟子があっての師範なので、弟子一人持たぬ師範はありません。 心ある人に一年間だけ弟子になって貰えないだろうか?」というのです。 更に、 お願いする以上は月謝は私から指南料を私から皆さまに払わせて戴きます・・・とも。 |
逸話を2つ | 小林師範に纏わる逸話を2つ。 山崎に「宍粟銀行」を設立して、当時はハイカラの先端、 フォードの自動車に自分の妾邸から、妾姫を乗せて出勤していた。 因みに、後に碁吉会が呱々の声を挙げたみつわ別館がかっての妾邸である。 山崎から網干まで50㎞余りに播州電鉄を走らせようと、企画したが、途中で破綻中止。 為に、素封家の小林さんは自分の山林・田畑の半分を以て精算したという。 |
詩吟のレパートリー | 具体的な話が纏まってきた。 小林善太郎と前野四郎と友沢庄二のお三人が揃って師範となられたそうで 友沢庄二(雅号・雅庄)医師がご自分の離れを提供してのお稽古となったと言います。 たちまち30人ものずぶの素人新弟子が揃ったものですから、 年長者を大きい組、年少者を小さい組と分けて一年間指導を受けました。 一年経って、私の諳誦できるレパートリーは幾つかになっていました。 「川中島」「泊天草洋」や「本能寺」などです。「送玄二使安西」は特に好みました 「送玄二使安西」 渭城朝雨潤輕塵 客舎青青柳色新 勸君更盡一杯酒 西出陽関無故人 |
自分流にアレンジ | 歳満ちて、丸一年の勉強後のお達しである。 「皆さまの卒業に当たり、姫路の雅堂流本家から来て、段位認定を行います。 なにぶん厳格なので、全員に卒業証書が手交出来るかどうかは定かではありません。 だから、どなたも充分お稽古してご参加下さい」と。 さて、試験当日、蓋を開けてみると図らずも30人が全員落ちこぼれなく お見事「雅堂流初段免状」交付となった。 小林善太郎師範の訓示が光っていた。 「皆さまは全員見事にパスされました。これからはご自分の創意の上、 どうぞ自分流にアレンジしながら詩吟に親しんで下さい」と。 |
お前は下手じゃ | 一方、前野四郎師範のことである。 前野さんは山崎囲碁会の大先輩且つ重鎮である。ある日、電話が掛かった。 「高野さん、まあ聞いて下さい。今日詩吟大会がありました。 私は会長として審判長も勤めましたが、表彰式も無事終えて、今、帰ったばかりです。」 それからです。 「選に漏れた人から・・・グループなんですが・・・、電話がありまして、 「先生はお前は下手じゃと言っておられんですか?」となじられるんです。 何のことかと聞いていましたら、あの人が上手いということは、お前は下手じゃ ということでしょう。そんな依怙贔屓するような会はもう出られへん」 「高野さん、どう思いますか?」 「グー」 |
絶対評価と相対評価 | 物事の評価には絶対評価と相対評価がある。 絶対評価とは、特定の基準に基づいて絶対的に評価する方法。 相対評価とは複数の被験者、試料の間で相対的に行うもの。 絶対評価ではその人自身の地力を評価していて、その基準値から+-を評価する。 相対評価では同じ技量・学力を持っていても相対位置が異なれば評定が異なってくる。 対外の大きなグループの中と、極小のグループの中とは盥のパイの 大きさが違うので、どちらが良いかとは言い切れない。 学校でも、小学生と大学生では基本的に評価法が違うはずだ。 甲乙を付けねばならず、付けてはならず。嗚呼。 |