天元打ちの新手法

                                                  高野圭介



天元の価値 
碁でも、天元と言われる碁盤のど真ん中の位置はどれほどの価値があるのか?

 この天元打ちの歴史を俯瞰すれば、
 江戸時代、碁のプロで天文学者の安井算哲が天元打ちしたとの記録があって、
以来、天元打ちは時代錯誤(オーパーツ)の着手のように顧みられなくなっていた。

オーパーツ天元 
cf:オーパーツとは時代錯誤遺物とか場違いな加工物などと言われるもので、
ナスカの地上絵・マチュピチュ・ストーンヘンジ・カッパドキアなどは
この足で見てきたものだ。

 昭和の天元
 昭和の代になって、呉清源が新布石を発表して以来、
突如として表舞台に現れることになった。

藤沢朋斉がしばしば天元からマネ碁を打っていた。
昨今は山下敬吾が大胆にも数局試みている。

 天元は急所か
でも、実戦ではほとんど打たれていない。それは、
7路盤以下は天元が急所になっていて、
先手が第1着をそこに打てば圧倒的に優勢になる。先手必勝法だ。

しかし9路盤以上では天元は絶対の急所ではなく、
第1着を天元に打っても、特に優勢と言う事はない。

と言うのも、初手天元は
「中心に打つため四方全ての向きからのシチョウに有利とされるが、
未だあまり研究が成されていない。」という事らしい。

安井算哲の天元 
囲碁の歴史に天元打ちをもう少し詳しく見れば、

囲碁の歴史から見ると、渋川春海こと安井算哲は天文学者で、
囲碁の打ち方へも天文の法則をあてはめて、太極(北極星)の発想から
初手は天元(碁盤中央)であるべきと判断している。

寛文10年(1670年)10月17日の御城碁で本因坊道策との対局において
実際に初手天元を打っており
「これでもし負けたら一生天元には打たない」と豪語した

しかしこの対局は9目の負けに終わり、それ以後初手天元をあきらめることとなった。

 太閤碁
作り話かとは思うが、太閤秀吉が天元打ちからマネ碁を打ったという話がある。

呉清源の天元 
新布石の呉清源は、大豪・木谷に対し初手天元に打った
後63手までまね碁を通した棋譜がある。

仮に碁の必勝法があるとすると、
この初手天元+まね碁という作戦はええ線いってるような気がする。
(まねてる間に相手の緩着を待つというのはかなり良い考えでは無いか?)

 山下敬吾の天元  
現役棋士の中で比較的多く指している山下敬吾九段は
「数目損」と結論付けていてもう指さないそうである。

しかしながら、実戦では、たかだか100局あまりしか打たれておらず、
評価は定まっていないように思う。

コミが6.5であるのに対して、1着の価値はその倍として、13目。
初手天元の価値がそれに劣るか勝るかは大いに興味がある。


東屋 弘棋友


神戸市東白川の東屋 弘さんと対局した。
東屋さんは専ら永年天元打ちに打ち込んでこられた。
その独特の天元打法に面食らったが、拾ったようなことになった。

百年の知己となった東屋さんから、黒番(天元打ち)必勝の新布石
「囲碁新手法・上・中・下」2003年・吉本瑞穂著を紹介された。


天石宥和 21 要石図

 

注:とはゆとりを持つ。ゆとりをおき、責めないでおく。大目に見てかばう。
宥和とは(相手に対する不満などを)大目にみて仲よくすること。

 
吉本瑞穂の

天元新手法

 吉本は天元について、天石宥和・要石図を中心に、
以下の如く、決然として断じている。

黒の第1手は天元でなければならない。理由は2つある。
第1は天元の大きさは他のどの石よりも2倍の大きさである。
第2はすべての石の大きさを定めるスケール(物差し)としての役割がある。」

詳細な説明はこの場では割愛するとして、
東屋さんの得難いアカデミックな囲碁哲学に接し、私の心は時めいている。
今をときめく中国流と併せて天元の新手法を研究したい。
そのように思っている。

天元打ち根拠
吉本流天元打法の天元打ち根拠

ベースになるのは二連星。そして天元である。
この組み合わせから全局に敷衍し、石は天石宥和の轍の跡を歩むことになる。
随所に独特の手法:等価値論などが支配している。


長所

 大模様の威圧は絶大。
 1.融通無碍の星打ちで、中央志向。
2.全く守っていない無手勝流が強烈な守りとなっている。

対処法の模索
天石宥和はゆとりをもって、じっとして動かないで、
敵の仕掛けを待って、カウンターパンチを狙ってくる作戦と見る。

天石宥和に対抗するには、
恐るべき未知のインベーダー集団と戦うと、見て良い。
したがって、対処法は、その脇の甘さという欠点を衝くしか無い。


対処法の模索

1.三連星そのものに、左右同形の欠点がある。

2.三連星と天元の組み合わせは類を見ない何かの理由があるはずだ。

3.とはいえ、三連星から天元に打つ感覚は世界中のプロに無い。

4.それは、凝り形?無手勝流?獲物が無いと無用の長物??etc.で、
恰も、戦艦大和の戦いぶりにその欠陥を見ることが出来る。

5.警戒を怠らず、深入りは要注意で、探り作戦で始まり、
天孫光臨型で、対処するのが特上対策か?

6.同時に、三三の隅を重視。

これからの天元
序盤研究の最終地点はてんげんだろう。ただし、
天元の働きはあまりにも茫漠として、短期間にはとうてい極められない。

しかい、「天元」が碁の大きなテーマであることは確かだ。
21世紀の碁は、中央の中央である天元への挑戦が
中心となっていくのではないか。


「天元への挑戦」山下敬吾・相場一宏共著あとがき から