薔薇の論

緑の反射の中で薔薇の花を論じるマ・ウーベル

                            宗 武志

全智は まだ至らぬ
 しかるに 全能は 謙虚であるー日記より

 ある者は論じた
 人が神を作ったのだ はじめから神などありはしない 
 神は人の理想に過ぎない
 
 ある者は弁じた
 神が人を作ったのさ 人などはじめから在る道理がない
 人は神の創作にすぎまい

 いや 神が人になったのだ
 いや 人が神になったのだ

 やめろ と マ・ウーベルが一喝した
 このごろ自薦自称の弟子がふえて
 彼の身辺も賑やかと言おうか
 いささかうるさくなったが
 めんどうだとも言わず
 やかましい時だけ一喝する
 やめろ

 静かになった室内は
 森の緑の照り返しが閃閃と
あちらこちらにほのかに底光りする

 物を捧げよとも神は言わず
 祈りを挙げよとも神は告げず
 誉めもせぬが 過ちも深くは咎めず
 海が毒で匂うても
 空が暗く染まろうとも
 すぐに怒ることはないばかりか
 却って根気よく黙っておる

 神は自らを汚したので
 顧みて反省し 自ら罪し自ら改める
 人間の困ることは
 人間が自分が気づくまで
 待っているのじゃよ
 なあ

 神の薔薇は小さくて足りる
 却って大きな薔薇を人間に作らせる

 人間が神を作ったとなら この薔薇も人間のもの
 神が人間を作ったとなら あの薔薇も神のもの
 どちらでもよいではないか

 マ・ウーベルがそう言うと
 鼻のあたまの反対に蝶が来て止まった

 知ることも出来れば 知らぬことも出来るとじゃ
 言うことも出来 言わぬことも出来
 行うことももとより出来るが 行わぬことも出来
 出来ることも出来るし 出来ぬことも出来る

 えらいやつじゃよ