塩 害

                                       高野圭介

 酷暑の年は台風と雷の当たり年だそうだ。
昨今の自然に対する人間の恐れを知らぬ不遜な在り方に
天の怒りが天変地異を起こさせている、という人もいる。

樹木の塩害


台風18号は神戸市の西部を痛め付けた。
 私は三宮の兵庫倶楽部で「一散会」という碁会から、
地下鉄で板宿まで帰ったら、地上の電車は全部ストップとのこと。
風雨の中を身体を低くして、突風を除け、
砂埃を避けながら徒歩30分、ようやく帰宅した。
 8時過ぎ、突如停電である。「風で電柱の倒壊かな?」と思ったりしたが、
そのまま寝入ってしまった。
夜中に目が覚めたら、テレビだけが煌々とついていた。
翌朝、停電の原因は電線の碍子に潮風が塩分を送り込んで、
通電しなくなったと報じている。思わぬところに塩害はあるものだ。

ここ、須磨の浦は平素から潮風のせいで、洗濯物など、からっと乾かない。
 須磨浜の植え込みの木々が浜に面した方が、
潮風にやられて、赤茶けてしまっている。



須磨の町中を歩いていると、あちこちの植木が南側だけやられている。
銀杏、紅葉、桜、ほか落葉樹も枯れ果て、この秋はもうダメだ。
人が皮膚呼吸を失ったかのような重大な結果が待っているのかも。

隣の花屋さんは被害甚大のようだ。真水で何回も洗っている。
聞けば、木々は塩に弱く、松は比較的強いのだそうだ。
その松も潮風の洗礼に、やはりやられている。


生き物への塩害

でも、塩はすべての動物に欠かせないもの。
また、牛に岩塩を与えている。馬に塩を舐めさせている。
河馬、象、鹿・・・も塩を求めているのをTVは放映している。

腎臓も血圧もほどほどの塩分が必要なのだ。
人は塩分不足による極度の低血圧症に陥ることがある。
体外に排泄される塩分は一日およそ1.3g。
健康体ならば最低でもこの程度の摂取量は必要なのだ。
塩分の補給が要るから、健康ドリンクという
若干塩辛いミネラル入りの飲物も用意される。

かと思うと、人間も「塩分控えめ」というスローガンがある。
塩分控えめ梅干し・・など現実に。何事も、ほどほど・・・

土地の塩害

国を滅ぼしてしまうことがある。
お浄めの塩は生き物を根絶やしにしてしまう強烈な毒素なのだ。
地中のバクテリアが塩に抹殺されてしまう。
雑草も何も育たなくなる。だからこれを「清める」という言葉に置き換えるわけだ。

 今、世界を震撼させているイラク。
嘗ては世界最初の文明の発祥地メソポタミアである。
この地の高度なシュメ−ル文化がどうして滅びていったか、
という謎を解き明かして、「それは塩害であった」と喝破している。

 要約すれば、

シュメール人自身が、南部メソポタミアの厳しい環境の中から
骨を折って作り上げた世界を破壊してしまったのである。
 夏は40℃を越し、地表からの水分の蒸発がはげしいために塩類濃度が上昇し、
貯水され、水量が増え、いわゆる「帯水現象」となって、
地下水位が上がってくる。そして、分厚い塩類層が形成されてくる。
やがて、塩分が地上に吹き出してきて、作物が出来なくなる。
やがて、メソポタミアは破滅した。
唯一、田を休めるという基本が疎かにされたことだったそうだ。
 cf:『緑の世界史』クライブ・ポンディング著・石弘之訳p.121.

海(湖)の塩害

イスラエルとヨルダンの国境にある死海(Dead sea)は
塩分が海水の9倍の濃度と、言われている。
もちろん、生物も絶え、海(湖)も塩害で死んでいく。