イチロー「激アツ!」の儀式

「自分のスタイルを貫く。それが大成功の原点である」 仰木 彬 監督


                                    高野圭介


 イチローがたいへんな記録をうち立てている。
未知の世界、年259本のヒットを放ち、
イチローは激アツ!と熱いものがこみ上げてきた。
さらに無人の境を今なお驀進中!

私が少年の頃、双葉山が69連勝をしていたのを想起した。

 アナウンサーがイチローのバッティングを紹介している。
「イチローの儀式を終え、ただいまバッターボックスに入りました」と。

確かに、あのイチロー独特のしぐさは、ウエイティング・サークルに入る前から始まり、
身体中の骨から筋肉をしなやかに、強靱に磨き上げる。
存分にイチローの儀式と言っても良いような、一連の動きが収まってから、
ようやくバッターボックスに入るのである。
そして
イチローは右腕をぐーっと突き出す儀式に入るのである。

彼が守備に就いているときでも、普通の野手とは動きが違う。
常に次の動きに備えた準備を怠っていない。

 美しい形式美

恰も相撲が日本文化独特の形式美に拠っているごとく、
薪能の舞台が夕闇の中、篝火にあやしく映える幽玄の世界を出現させるがごとく、
日本文化の代表的なものとして、禅、弓道、茶の湯とあるが、
それぞれの形式美も同じく一つの儀式に依っている。

 ここに目を日本文化の最右翼と自負する囲碁に移してみよう。
碁にも整合性のある作法、マナーに従ってこそ碁らしい。
 中でも、碁打ちの心得として「負け方」の作法を身につけておく必要がある。

負けの碁はまだ半ばながら投げぬるを
               はたの人だに惜ししと見るらむ


 世の中には儀式無用論というのがある。
 実態があれば、しかめっ面い儀式のようなものは不要というのだ。
分からぬでもない。へんに、慇懃無礼は困ったことだ。

 でも、知らず知らず、誰しも毎日遵守している大切なもの。
それは「就寝の儀式」と言われる。

 床に入る前、歯を磨いたり、あくびをしたり、水を飲んだりする。
いろんなことを一通りして、
やっと横になり、もぞもぞするかと思うと、枕の高さやお尻の位置などを調整して、
やっと睡眠に入る。

 これはとても重大なことで
、誰しも意識するかしないか、何か自分のものを持っている。
これを上手に操っている人は睡眠薬なんぞ要らない。

「人生の儀式」というものがあるなれば、
 司馬遼太郎の言葉を噛みしめよう。

「気分転換のための触媒を作っておくといい。百ぐらい作っておけば一生もつ」と。