「モモジとキンザ」 高野圭介 |
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「モモジとキンザ物語 |
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エーゾのモベツ | むかりむかり エーゾのモベツというところに、 浦太郎と桃次郎と金三郎という三兄弟がいました。 長兄の浦太郎は流氷のクリオネを見に行くと言ったまま 行方が分からなくなってしまったので、寂しくなりました。 |
「モモジとキンザ」 | 残された二人はとても仲良しでした。 二人共、お尻には昔風の健康優良児、 今様ではExcellent の焼き印を押され、 とても気がやさしくて力持ちで、元気ですくすく育ちました。 村人たちはこの二人を「モモジとキンザ」と呼んで可愛がりました。 |
雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ |
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モモジと少女 | モモジは相撲が好きで、腰の粘りが強くて、周りの子どもたちは もちろん大人でも投げ飛ばされ、敵わないほどでした。 また鹿の言葉が理解できたので、鹿に跨って野山を駈け廻っては 草原に寝ころび、四っ葉のクローバーを探すのに長けていました。 カグエやオトヒらの可愛い少女にこの幸せの印を贈りました。 また、モベツ川の冷たい清流での魚たちと一緒に泳いだりしました。 鱒の大群の中に入っていって、ヤスで雄の鱒を突くのもまた得意でした。 |
キンザと熊 | キンザの腕っ節は筋金入りで、兄のモモジが鹿に乗るとき、 腕をグイと差し出して乗る台にしました。 あるときは左右の腕を交互に差し出して梯子になりました。 またある春先のこと、山奥で熊に出遇いました。 熊をじーと睨みつけると熊は両手を挙げて、 くるりと後ろを向いて、そそくさ逃げてしまいました。 |
慾ハナク決シテ瞋ラズ イツモシヅカニワラツテヰル |
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キンザの語学才能 | キンザはドイツ系のロシア人からドイツ語の歌を聴き、 いろんな歌を歌っていて、ドイツ語が分かってきました。 中国語もそのようにして覚えました。 語学の達人というのでしょうか、 牛の泣き声を聞き分けて会話も出来ました。 |
モモジの数学才能 | モモジはいつどこで身につけたか、数字の謎を解く才能が表れました。 特に今でいう順列組み合わせは数式もなく、 答えだけはさっと出て来ました。 しかし、自分でもどうして解いたか分かりません。 ノーベル賞候補といわれた「四色問題」など、 簡単に解けていたのだが、演算はコンピューターの 助けが要ったので証明の数式と結論を出すなど、 無理なことはやはり無理でした。 |
一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ アラユルコトヲ ジブンヲカンジヨウニ入レズニ ヨクミキキシワカリ ソシテワスレズ |
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キンザ:妙好人 | キンザは牛や鶏の世話がよくできました。 手入れの届いたギンザの牛は品評会でいつも 最高の品質:Excellent を保証されているのです。 |
ある日のこと、隣の牛舎が火事になり、46頭の牛が路頭に迷いました。 こんな時キンザは自分のも人のものも見境はありません。 可哀想な牛を引き取り、懸命に世話をしてあげました。 元気になった牛はもちろん、そっくり返してあげました。 仏教にいう妙好人なのです。 |
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野原ノ松ノ林ノ陰ノ 小サナ萱ブキノ小屋ニヰテ 東ニ病気ノコドモアレバ 行ツテ看病シテヤリ 西ニツカレタ母アレバ 行ツテソノ稲ノ束ヲ負ヒ 南ニ死ニサウナ人アレバ 行ツテコハガラナクテモイヽトイヒ 北ニケンクワヤソシヨウガアレバ ツマラナイカラヤメロトイヒ |
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都びとたちと 「カムイミンタラ」 |
ある日のこと、山越えて、その山をまた越えて、その先の海を渡り、 また、山越えて、空高く舞い上がるジェット機に乗り、 大接近中のMars こと火星の重力に引っ張られ、 京の都から都びとたちがやってきました。 丸太の山小屋は「カムイミンタラ」と呼ばれ、 都人たちの宿で、寝具を敷き、美味しいご飯も炊きました。 |
村人の大歓迎 | 聞き知った隣人たちは次々と訪れます。 南京、ジャガイモ、ネギにキュウリなど地元の いろんな珍しい産物を珍客のお腹の足しにと届けます。 朝は絞り立ての牛乳、釣り立ての鱒、タラバの蟹から もぎたてのトマトなどもいっぱいっぱい届きました。 |
Super Adult Child モモジ、キンザの徳 |
都びとたちはどんなに喜んだことでしょう。 貰ったそのものもだけど、それだけじゃなくて、 村人の中には都びとを Super Adult Child と呼んで、 楽しいお付き合いが続いたことも。 噂に聞いていた竜宮城にも似ていたので、 都びとは「クサシカ・ロギング・カースル」と名付け、 モモジ、キンザの徳の深さに心を打たれました。 |
ヒデリノトキハ ナミダヲナガシ サムサノナツハ オロオロアルキ |
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「Park Golf」 と トッカリのお風呂 |
村人は「Park Golf」が好きでした。ゴルフにそっくりだがゴルフではない。 それも村人に誘われて一緒にタノシクタノシクやりました。 トッカリのお風呂も大好き。温泉のようで温泉でない。 どこからか津軽三味線のライヴが聞こえてくるそのお湯で、 水風呂からサウナ、サウナから泡風呂と、お風呂のハシゴをしたり、 隣のプールには三階からスベリ降りる ジェット・トゥルンメン・コースターのスピード狂が 一気に「若さ」という贈り物を贈ってくれました。 |
魚釣りの醍醐味 | 砕氷船・ガリンコ号に乗って海釣りにも行きました。 都びとは言いました。 「私に釣られる魚は居ないと思っていたら、 カレイが行列して海の底に私を待っていてくれたのか、 連なって上がってきて、 私にも魚釣りの醍醐味を教えてくれました。」 ・・・だってさ。 |
出るに、出られぬ ホッテントット |
また都びとは言いました。 「私は囲碁と碁との区別はしにくいのだが、碁を打とうというと、 「囲碁ならします」という。では囲碁をしようというと、碁なら打とうという。 ちょっと、へそが曲がった碁のクラブがありました。 打ってみると、誰も彼もが皆天元から打ってくる。 これには驚いたが、強いっていうものじゃない。 都人が「なぜ宇宙大会に出ないか」と聞くと、 「土地が広大で、予選から決勝までには数回の場所替えと、 時間的な制約があるとかで、この広いエーゾでは、 物理的に出るに、出られぬホッテントット」なんだそうだ。 |
ミンナニ デクノボウトヨバレ ホメラレモセズ クニモサレズ サウイフモノニ ワタシハナリタイ |
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アイヌ協会 | モベツにはやはり少数民族・アイヌの言うに言われぬ 苦労を分かち合うアイヌ協会があり、 いろんなことで世の中からはみ出そうになった青少年を 救う施設・家庭学校にも訪問し励ましたのです。 これもモモジ・キンザの徳の及ぶ範疇でしかなかったのでしょう。 |
海山越えて空越えて | 都びとは暇乞いをし、 はるばるやって来たあの海山越えて空越えて帰ってきて、 なぜか来る日も来る日もなお、ほのぼのと心温まる日が続くのでありました。 いま懐かしの「モモジとキンザ物語」であります。 |
おしまいのウン |