潮のように拡がって、錐のように尖れ 日経新聞2007年4月2日記載「世界を創った男」堺屋太一著より 高野圭介 |
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金朝泰和3年(1203年)旧暦9月15日、満月の夕刻のこと、 チンギス・ハンはケレイト族長のトオリル・ハンの本営を望むチェチェエルの丘の上に立った。 彼は漢北の事実上の決勝戦に臨む全軍に命じた。 |
「戦いの場に臨むなら、潮のように拡がって、錐のように尖れ。 敵を殺すのをためらうな。逃げる敵は馬を射よ。倒れた敵は背を刺せ。 退いたときは発信点に立ち戻れ。馬と女と財物は掠めてはならぬ。 ハンが必ず呉れるから。」 それだけの言葉を全軍の将兵が歌った。いや、太鼓に合わせて声を限りに叫んだ。 |
そして、こうも言った。 「強いて戦うな。チェチェエル北面の林を取り囲んで、ゆっくり包囲の輪を縮めよ。 敵を殺すよりも、逃さぬことが大事だ。 巻狩りの要領と思え。」 |
チンギス・ハン(テムジン)の言葉はそのまま碁の指南書だ。 「対局に際し、大模様を張って、石を切れ。石を取るのにためらうな。 逃げる石はストーリーを作って追え。取った周辺は味よく打て。 戦いが一段落したときは傷がないように。カス石には目もくれるな。 大局観に立って打て。」 |
そして、こうも付け加えよう。 「強いて戦うな。大きく取り囲んで、ゆっくり包囲の輪を縮めよ。 眼を取って取りかけにいくよりも、包み込むことが大切だ。 石立ての要領と思え」 |