地と模様を超えるもの

ーーー趙治勲とAI囲碁ーーー



                             2019年8月24日

                                       高野圭介


碁のメカニズ


さて、私たちが碁盤の前に座る前に、碁の本質と対話して打てるよう、
碁のメカニズムを考えてみよう。

 碁は地の多いさを争うのだが、囲うても地にならない。
どちらかと言うと、石を取って地にするものである。
あるいは、石を攻めて地を作るものである。つ
まり、弱い石を作っては薄くて勝ちにくい。かといって
強い石ばかりでは効率悪く、甘くて勝ちにくい。

 どのような碁形で布陣し、どのような進行が望ましいかを
その局面に合った進行でなければならないのだろう。

 大まかに言って、
小林光一の決め打ち、武宮の宇宙流の二極があるとしよう。
全く逆の発想かと思っていた。

 ところが、
苑田勇一は「実は、両者とも同じことをやっているのである」と、
「逆も又真なり」と言い切るのだから、凡人には分かりにくいこと夥しい。
 この二律背反の世界に一つのメカニズムを求めようというのだから、
玄玄深淵と一口に言っても、見当も付かないというのが本音である。


一着の価値

碁は一手一手
の積み重ね。


 万能とは何でも利く、
使えるなどだが、万能の神ゼウスこそ万能であって、
万能継ぎ手:ユニバーサル・ジョイント。万能鍋。
万能選手は仮想上概念の万能でしかない。

「囲碁の万能」

  さて、囲碁における万能などいったい何だろう。
もちろんいつでも自在に勝てるというのでは無い。自分の囲碁哲学に合った
着手を求める敷衍的な基準はどう定めるか?というのである。

つまり、囲碁作戦の万能指南番・物差し。

 例えば、具体的な鶴翼の陣を敷く。天王山を探す。死活を確認する、
両先手のヨセ、3目の真ん中、などなどもそうだ。しかし、
草の根運動のように、盤中くまなく嗅ぎ廻り、名も無きところからも
急所を探しだす万能の手法とは何か?

「一着の価値」

 囲碁万能媚薬は「一着の価値」と言いたい。

「今後予測される1手1手の価値」をデジタル化して、
1局の作戦のプランにインプットする。それを時系列、価値列に並べ替えして、
修正を加えながら着手を決める」というのだ。

  序盤、1手20目の価値から終盤ハネツギ2目まで、
一着の価値を信じて手厚く打つ。

 たとえ後手でも甘んじて打つ。後手の先手ともなればなお良し。
迷わず「一着の価値」を金科玉条と信じたら、含みのある落ち着いた碁に
変身するであろう。まさしく横綱の仕切り「後の先」の如く。


実利と厚み。

そして

模様・・・地取り
のすすめ


 一般に、定石という双方満足という分かれは
「隅に根を下ろしながら,中央を塞がれないで首を出している」姿と見ます。

変化の果ては「地と模様」に分かれていく。

「厚み」とは・・・「壁がしっかりしていて強い」
「実利」とは・・・「地を持ってしっかり生きている」

 この2つのことは
「眼形がしっかりしていて強い」のとは同じことを言っていて,
共に「攻められない」ということに過ぎません。

 ここに新しい認識
「地を取ることは厚い」をしっかり知ることです。
ただ、「現実性と可能性の対立」して捉えられるべきものでしょう。

 具体的に、小林光一の「地下鉄の碁」の本質は「的確な方法で地を取る。
その地が厚みとしてやがて盛り上がってくる。」なのです。

 碁の中・外を上・下とでも言うならば
,「石が上に行くように打てば盛り上がって良いが、
下に行くようではみみっちい」というものでは無くて

,「上を打ちながら下を思い、下を打ちながら上を視野に入れる」
であります。
この表裏一体の、多面性が碁というゲームの本質と言えます。


攻めとシノギ



二段構え

 
 
攻めの効用

1.直接攻めて相手の石を取ってしまう。
2.攻めることで,周辺で得をする。
3.もたれ攻め・からみ攻めなど間接的な攻め。
4.攻めながら,自分に石の弱点を補っていく。
5.形を決めて碁形を分かりやすくする。

シノギ

 シノグときは「シノゲば勝ち」という碁形でなければならない。
又、そのようなシノギ方が要求されるのです。
 凄いのは攻撃的にセメル。
つまりシノグ時にはどれほどキビシさが要求されるか。
 模様を消すときいわゆる「浅く消す天孫降臨型」が
「深く打ち込む」かは碁形にもよります。

セメル

 攻めるときはだいたい一直線の攻めは無いとしたもの。
もし、シノガレても第2弾第3弾の攻めを用意しておく。
つまり、シノガレても悪くないという攻め方を心掛けます。

 結局,攻めるときもシノグときも2段構え3段構えという
ふところの深い打ち方が良いのです。


ヨミは量より質

 
 
 碁の強さは感性(センス)・力量(パワー)・大局観(戦術)などありますが、
「ヨミの力」は絶対です。多かれ少なかれヨミの裏付けのない手はありません。

 沢山ヨンだというよりは質の良いヨミで無けれ
ば、相手とのヨミ合いに勝てないのです。

 普通の手筋・形のヨミもさることながら
隠された手筋・妙手などもヨンで見落とさないことです。


静的なヨミと動的なヨミ

 ヨミには二つあって、
部分のヨミと全局のヨミ。その全局のヨミにも二つあって、
静止の状態で全局を眺めるヨミ。もう一つは手順の流れの中のヨミです。

 全局のヨミは判断能力・大局観・変化の予知能力・比較検討能力・などに依存します。

 一方ヨミには手が見える明るいヨミと手がヨメない暗いヨミの部分があって
この二種類が混在しています。更には偶然のヨミもあります。

決断力

実はこれらの能力の総決算を咀嚼して素早く決断する「決断力」も重要です。


形勢判断

すべからず

 

 形勢判断ほど難物はありません、先ず、双方の地を数えて比較する。

 碁には厚い地・薄い地。強い石・弱い石。背中の厚み・模様の大小。
石の好形・愚形。盛り上がり具合。先手後手。
もし、弱い石を一つでも抱えていたら、ことは重大。
 この総合的な判断が正確に出来るか。

 ところで、正確な形勢判断から、次の着手にどう影響するか?

これが又問題です。
計算したために,優勢な碁を落とした例はいっぱいあります。
「計算の如何に関わらず」その場その場で燃え上がろうとする。
それがツキを呼び込みます。 それが「計算しない派」。

因みに、
私も「計算しない派」で、打ちながら「今勝ってる・・・負けている」を
肌で感じる抽象派なのです。



 AI囲碁の理念

 
最後にAI囲碁の理念に触れたいのですが、私には全然分かりません。

ただ、ジャパン碁コングレス金沢のテーに
「楽しませる囲碁プログラム~強すぎるAIにどう接待させるか」と
あるのが眼に入りました。

それだけをお伝えしてお話を終えます。         以上