囲碁祖型の一考察


-メソポタミア文明に源流を求めて-


第一章   人類誕生

(三) 宇宙観と盤 Ⅱ  インド・中国


 
碁は「小宇宙」といわれる。その発生の源を訪ねるに当たって、
古代人が盤(Board) を掌中のものにするキィが潜んでいるであろう
宇宙観を紐解かねばならない。


                                    2012年11月5日    高 野 圭 介


インド
古代インドはインダス文明である。
インドの北西部カラコルム山脈から流れ出し、西パキスタンの中央部を貫き、
アラビア海に注ぐインダス川。その川流域に栄えた文明である。

 BC 2,500~ 1,000年ほど続いたと言われる。
下流のモヘンジョ-ダロ(1922年に発掘され、計画的につくられた都市と判明した)、
上流のハラッパが中心で、縦横の道路、さまざまな公共施設、農業、牧畜、
商工業、等進んだ社会だった。しかし、洪水やア-リア人の侵入で亡んだと言う。

 ところで、ア-リア人とはインド・ヨ-ロッパ語族の内、インドとイランに定住した民族。
高原地帯から南下して、一部はインドに侵入、他の一部はイラン高原に進出して、
のちにペルシャ帝国をつくった。《文献07》

数々の神話
 ゾロアスタ-教の教典に「アヴェスタ-経典」がある。

それはイラン人の遠い先祖・ア-リア人が伝説のエヤヤナ・バエジョに住んでいて、
その昔、地上に楽園があったと伝えている。このアヴェスタ-系
ア-リア人
どこかは分からないが遠くの故郷から、西アジアに移住してきたとされている。

 その時代のエヤヤナ・バエジョは温暖で、豊かな土地で、
夏が七ヶ月、冬が五ヶ月あった。

聖なる神アフラマズダが最初に創った国で、第一時代の世界に繁栄した。
そして、数々の神話が生まれた。

 やがて、終末が訪れて、洪水の洗礼を受け、
ノアの箱船で脱出することになる。 

インドの宇宙観
 また、インドの宇宙観はどうか。

 ヒンドゥー教徒の宗教は 5千年前、古代インドのバラモン教の最も神聖な
根本聖典である「ヴェーダ」に拠っているといわれている。

 「ヴェーダ」はブラーフマという唯一の最高の神を教えていて、
三人の擬人化された神によって表されている。つまり、
創造者ブラーフマ・保存者・ヴィシュヌ・破壊者・シヴァ
主要三神の一体像を形づくっている。

 ブラーフマは宇宙の創造主で、この神を源としてすべて他の神々が生まれ、
そしてまた最後にはすべてのものがこの神の中に吸い込まれていくような存在なのだ。

「ちょうど、牛乳が凝乳に変わり、水が氷に変わるように、
ブラーフマは外からいかなる力も借りることなく、さまざまに形を変え、変化する」

小宇宙たる盤

ブッダ(仏陀)はヴェーダの中では、ヴィシュヌ神のみせかけの権化であるが、
信者たちは地上の聖人であったといわれていて、またの名をゴータマといい、
サーキャシナ(獅子)とも呼ばれていた。《文献10》

 このように地球上の古代人たちは自然の余りにも偉大なるものにおののき、
渾然たる天空と茫漠たる大地の前にひれ伏した。

こういった宇宙観を持つインド人には
自分らの手で律しうる世界の模像として
小宇宙たる盤が認識されてきたのではないか。

中国


消滅した宣夜説

 さて、碁の発祥の地として言い伝えられてきた黄河流域では、
古代中国の
天文学者の宇宙観は三つの類型があった。

すなわち宣夜説、蓋天説、及び渾天説である。
これらの宇宙構成論は漢代に成立している。

ただ、宣夜説は早く消滅して伝わっていない。
宣は「ひろめる」に意だから「宇宙は夜」と言うのであったろう。

渾天説
 また、渾天説

「天地の形状が鶏卵のようで、天は大きくて地の外部を包んでいる。

あたかも黄身のように地は天の内にあり、
無限に回転して、その状態は渾々然たり」、
更に「天の表裏には水があり、天と地はおのおの
陰陽の二気に乗ることによって支えられている」

蓋天説



蓋天説とは

「天円地方」(天は円く、地は方形)という表象を、詳説すれば
「天は蓋笠に似て、地は覆せた盤に法っており、
天地はおのおの中央が高く外部が低い。

北極の下が天地の中心であり、その地が最高で、急激に四方に向かって
低くなっていて、日月星辰が陰ったり映ったりして昼と夜となる。

天の中心は外衝よりも高く、冬至に太陽は外衝から六万里の高さにある。
北極の下の地も外衝の下の地より六万里高く、
外衝は北極の下の地より二万里高い。

天地の隆起するする高さは平行しており、
太陽は地から常に八万里隔たっている。
ここに外衝とは天の円蓋の下端の周縁部である」というのである。




「天円地方」(天は円く、地は方形)

大地を碁盤状とする地球構成論の蓋天説

大地を碁盤状とする
 この二つの論の間にはさまざまな論争が展開されていたようだが
中国では
「大地を碁盤状とする地球構成論の蓋天説が
一般的な宇宙観となっていた」
《文献07》

 世界の文明の発祥の地といわれる他の古代人類も
分からないことは神のなせる業とした。

確かなものは自分がしっかり踏ん張っているこの大地だけであった。
その大地ですら、地割れ・洪水・噴火と脅威があった。

結ばれている

古代文明

ここまで歴史を俯瞰したとき、
古代文明は見えざる糸によって、しっかりと繋がっていた。

就中、中近東ではメソポタニア文明はペルシャに受け継がれていったが、
またここからエジプトに、インドに、ギリシャにと
四方にどこかで結ばれていたものと認識できる。



参考文献

《08》クライブ・ボンティング『緑の世界史』上下巻                
          京都大学環境史研究会・石弘之代表訳 1994年 朝日新聞

《09》グラハム・ハンコック『神々の指紋』大地舜訳       1996年 翔永社

《07》湯川秀樹編集顧問『ジュニア-学習百科辞典』     1980年 旺文社

《10》T・メブルフンチ『ギリシャローマ神話』大久保博訳   1975年 角川文庫

   「古代中国世界の境界」