丈和の訓戒 ー日本囲碁体系10『丈和』藤沢秀行ー筑摩書房 p.266. 「それ棋(囲碁)に三法あり。 石立(布石)、分かれ(中盤戦)、堅め(侵分)なり。 此の三つ宜しき時は、其の業大功なり。 三つの志すれば上達し、邪道に志すれば下達す。 邪道とは欲心深きを言う。 欲心は見えぬ手を見出さんとして、調子長く成って起きる手筋を言う。 知らざれば、考えてもなかなか見えぬものなり。故に打つ程に下達す。 正道は欲心深からざるを言う。 その術、早打ちにして、手筋を心掛けくるにあり。早きときは、欲心出る隙なし。 欲心出ざれば、手筋好く、次第に上達す。 これ初心第一の心意なり。 また地取り、石取り、敵地へ深入りし、石を逃ぐる、みな悪し。 それ地取りは隙なり。石取りは無理なり。深入りは欲心なり。石を逃ぐるは臆病なり。 故に地と石とを取らず、深入りせば、石を捨て打つべし。 地を取らざれば堅固。石を取らざるは素直。 深入りせざるは無欲なり。石を捨つるは尖き(スルドキ)なり。 とかく我が石を備え固むるを第一とし、次に敵の隙間を打つべし。 かくの如くするときは、手筋素直にして、上達速やかなり。 初心の業、正道に入り易く、上達しやすからんことを示すのみ。」 |