紅葉の目付


ラウンド制インターバルを廃止した新囲碁事情


                                   囲碁6段 剣道2段 ゴルフ9

                                               梅影悟彦


「紅葉の目付」




 ゴルフ場がいちばん美しいのは秋だと思う。春の桜も新緑の夏も良いが、
落ち着いた雰囲気の中でショットするのが性に合っている。

 つい先日、宝塚でゴルフをした。言わずと知れた碁吉会の面々と楽しい一日だった。
紅葉たけなわを愛でながらの思いついたのは「紅葉の目付」という言葉。
つまり枝葉の部分をのみ見るのではなくて、紅葉の木全体を眺めよというものです。



「紅葉の目付」
は剣道の心得の一つの言葉ですが、相手の剣先ばかりを見ていると、
相手の繰り出す技に屈してしまう。相手の身体全体に目を向けることによって
相手の技を見抜くというものです。

 

 
目付について

 古くから
「一眼二足三胆四力」と言って、剣道の稽古では、
眼の働き、いわゆる「目付」が非常に大切な要素とされています。

 技と心の争い  
剣道の稽古は、表面的には技の応酬ですが、一方で心の鍛錬でもあります。
つまり、
剣道というのは技と技の争いであると共に、心と心の争いでもあるわけです。
そして、その心の有り様を最もよく表すものが眼です。

「目付」が重要  
ですから、
相手のどこをどのように見るかという「目付」が非常に重要であり、
「目付」の如何によっては、相手の心を読むこともでき、
逆に自分の心を読まれてしまうことにもなります。

全体を見る
 剣道の基本は「遠山の目付」「紅葉の目付」ですが、
最初から全体を見るというのは、
先に述べたようになかなか難しい面があります。

人間はどうしても心が何かにとらわれると、
一ヶ所を注視してしまう傾向があります。

二つの目付
そこで一ヶ所に心をとらわれないようにするために、
あえて二カ所を同時に見て、
一カ所に心が偏るのを防ぐ方法があります。
それが「二つの目付」と言われるものです。 


ゴルフに例える  
 ゴルフに例えるなら、
アドレスはちょっと度外視して、一ホール全体で言うなら、
一ホール全体の攻略を図り、焦点を最終のパターの位置に置く。

途中の優劣は問わないというものです。



  
碁で例えると

武宮の全局指向

 
碁で例えるなら、
部分部分の折衝にはこだわらず、盤全体を見よということになります。

特に昨今はこの傾向が強く見られて、
「盤全体で打つ」という言葉をよく耳にするようになりました。
定石も得な定石、損な定石という分け方も聞かなくなってきました。



 この傾向は武宮正樹が全局指向に400年の碁の歴史を改め、
加えて井山裕太が昨今碁を変えていると思う。

 井山が変えたのは、ラウンド制の碁を排し、
進行につれてどんどん戦いも進行していく碁にしたからです。


 ゲームの最中に

小休止


 ラウンド制のゲーム、スポーツに目を向けると、
ゴルフもボクシングも一緒で、
一試合中の戦いがラウンド(ホール)で区切られ、
ラウンド毎にインターバルが設けられている。

 このインターバルこそが曲者で、気分転換やリズムの保持やいろいろあるが、
重要なことはゲームの最中に小休止が持たれるという弊害です。




ラウンド制を廃した

井山革命

 
 井山以前は敢えて対局者同士が暗黙の中にインターバルを設けて、
区切り区切りというラウンド制の碁にしていた。

 一局の中に訪れるインターバルを廃し、
インターバルを設けないのが井山の碁だと思います。



一局の碁は一局ですし、ゴルフのように一試合の中に18回の戦いがあり、
ボクシングのように一試合の中に12ラウンドの戦いがあって、
休憩休憩しながら打つのであれば、ゴルフゲームと同じ。

 井山は過去からの伝統に隠された暗黙のルールを廃した。
井山革命である。



確かに中国や韓国の碁はラウンド制ではありません。
インターバルを取らない碁の方に戦いがシビアーに展開するのは当然です。