新加波の囲碁事情


ー新進のプロ二人を専属に百尺竿頭を行く子どもたちー

                                 高野圭介

旅は風土が温かくて楽しい所が良い。風土は人である。
たまたま南十字星の輝くシンガポールを訪れる機会を得て、
押しかける形でシンガポール棋院を覗くことになった。
 と言うのも、1998年バンコックで陳さんと面識があったので、連絡が取れた。
陳さんは5年前には書記長だったのが、今回は会長の名刺を戴いた。
陳会長は「チェン」でなくて「タン」と読む。中国は福建省の出だから、
中国の標準語(普通話)では読めないから無理もなかった。

 碁のメッカ・新加波囲碁協会は国家唯一の棋院は大がかりな組織である。
この巧まざる経営は陳丁川会長・何致詳副会長・蔡博茂財務担当らを中心に、
鋭意日夜分かたぬ運営によって推進されている。

 ここシンガポール囲碁協会には、中国棋院の康占斌六段と楊晋華六段
共にもう十年に余って住み込み、後進の育成・指導に当たっている。
棋院がこの二人の師範を丸抱えしているわけだ。
 協会の会場は二カ所あって、市区会所と碧山会所で、共に結構広い。
棋院の部屋はすべてガラス張りで、どの部屋からも見通しが良く作られている。
生徒の主役は子どもたちであり、父兄も一緒に研鑽しているようだ。
可憐な子どもの声、軽やかな動きでとても明るい雰囲気である。
ヒカルの碁はここシンガポールでも日本同様広く愛されていて、
ヒカルは棋魂で、二人の師範は差為こと棋霊王である。

対局ルールは台湾の応(イン)ルールと中国ルールが併用されていて、
子どもの初心者はなかなか理解が難しいようだった。

 活動の状態から見ると、かつてはASEANの囲碁界では
タイ国がいろんな意味で断然リードしていたきらいがあったが、
努力の甲斐があってか、2004年9月にはシンガポール囲碁協会主催の
第一回アジア・アセアン国際囲碁大会が催されることになっていて、
日本からは国際囲碁友好会(私・高野も理事として在籍)が招待されている。

 私は中国・広州からの若手No.1 木 土濤氏との碁を皮切りに、
何致詳副会長・蔡博茂財務担当や陳丁川会長との親善碁を何局か打った。

最後に時間の許す限り、康占斌六段の指導碁を受けた。
 少年の強い子たちは日本の7段クラスが屯していて彼らは私の碁を見守り、
先生の解説に結構自由な発言をしていた。
おそらく8段クラスの青少年はすでに輩出しているに違いない。

 こうした中、たまたま訪れた私を温かく迎えて頂いた。
 ご案内頂いた105bの山頂からの360°眺望は快晴に恵まれ、
どんどん埋め立ててビーチサイドを整備した浜は美しく、
セントーサの資料館や前夜のナイト・サファリにも劣らぬ景観で、
素晴らしい一日が瞬く間に過ぎた。

シンガポール春節の日曜日、夜の街を日本人の屋台が
よさこい♪♪♪よさこい♪♪♪・・・と練り歩くのを横に見て
雨期の明け切らぬ道を空港へと急いだ。