神と人の薔薇の論

                              高野圭介

 身辺を整理していたら、古い手紙が出て来た。

VITA  BREVIS .....人生は短かく
ARS  LENGA .....芸術は長し
OCCASIO  PRAECEPS......好機は過ぎ去りやすく
EXPRIENTIA  FALLEX......経験は誤り多く   
JUDICIUM  DIFFICILE .....決断は困難である 

    Hippokrates (ヒポクラテス)の言葉


(直木三十五が「芸術は短く、貧乏は長し」と
  言ったのはヒポクラテスの言葉をもじったものか)

 もう10年も前、1992年5月29日付けのペン書きで、
千葉県柏市の榎本俊康医師からの信書である。
なんでも『醍碁味』の嬉しい書評に加えて
宗武志先生のことが記してあった。

一部を抜粋すれば、

「天才呉清源先生の{碁は調和にあり}という思想は、
私の恩師であった人、画家、教育者であられた宗武志先生も、
よく先生のお部屋でおっしゃったこと
{絵も仕事も教育も世の中ハーモニーが必要と考えるようになりました・・}
と全く類似しているのに驚かされます
・・中略・・
宗先生の詩{薔薇の論}も同封しておきます」と。
 
薔薇の論

ー緑の反射の中で薔薇の花を論じるマ・ウーベルー

                            宗  武志

全智は まだ至らぬ
 しかるに  全能は 謙虚である ー 日記より

 ある者は論じた
 人が神を作ったのだ はじめから神などありはしない 
 神は人の理想に過ぎない
 
 ある者は弁じた
 神が人を作ったのさ 人などはじめから在る道理がない
 人は神の創作にすぎまい

 いや 神が人になったのだ
 いや 人が神になったのだ

  ー後略・薔薇の論へリンクー
 
 私は榎本先生とお話しがしたくなって、0741-72-3551 にダイアルしたが、
ツーツーと発信音ばかりで、ブラックホールに吸い込まれるよう。
私の心の空洞に、返ってくるエコーを待つばかりであった。