中杉隆世俳句十段のこと
高野虚石
初めてお眼に掛かった隆世師はとんでもない達人だった。
師は「無常の詩の人」ぐらいしか判らなかった。
この度、句会に臨席して、
句を正確に読み取るスピードと汲み取る深さに驚嘆した。
各人出句の精記が回ってくるのだが、師は斜め読みに
さっと読んでは半眼に閉じる?それが続く。速い。
いつ書き留められたか、分からない。批評も出来ている。
ふと、思った。NHK俳壇の選者が何千句から数時間の間に、
どうして特撰一句を選ぶか? いつも疑問だった。
師に伺うと 「スーッと見ていくと、
秀句の字面が自ら飛び込んでくる。文字と瞬間の格闘です。」と。
一般に、白と黒の石と石の織りなす石模様がある。
碁石の静かなたたずまいを感じる。
それが手どころになると、筋と形からヨミの戦いとなる。
碁の達人がその局面を一瞥したら、
「瞬間に、手どころ、形勢判断が掴める。」
「この一点」と決めたら、途端、白黒の石が絡み合い、
無数の変化が描かれ、どれかの着手を決断する。
師の句に対する処遇はそれと寸分違わない。
師は俳句十段だった。
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