AIと囲碁

産業へ、そして人生との関わり

                                             2017年4月       高野圭介


AI の人生との関わり


 チェス・将棋のゲームではすでにAIが君臨してきたが、
囲碁はまだ暫くはプロの世界と目されていた。


コンピューターの囲碁

「コンピューターが創っているから、人間にはその中身が分からない」



ところが人工知能AIが突然、囲碁界を席巻する新時代がやって来た。
すでに承知のことである。

 昨今、AIとLOTが人類に寄与する器械として認識され、
実用化が進むに当たり、その知能とか理解度を測る試金石をして、
ゲームの世界に登場してきたと言うのがほんとうである。



「AIの碁は強い!」と言っているだけでは無い。
AIが囲碁界から人生にどういう関わりを持ってくるかに論究しよう。

1.囲碁界プロの歴史

2.囲碁界アマの歴史

3.囲碁アマとプロの間

4.AI囲碁の登場はAIの能力を測る試金石

5.AIと産業問題・・人類への貢献

6.自分で学習して動くAI

7.AI囲碁の棋力・実力

8.世界の囲碁界と日本の囲碁界の情勢

9. ヒカルの碁は起死回生の起爆剤

10.囲碁界の底辺を広げる運動


1.囲碁界プロの歴史




囲碁界400年の歴史を紐解くに、
江戸時代は名人碁所のほんの一握りのプロ集団だった。
明治から大正にかけて、真剣師という賭け碁の一本独古が各地に屯していた。
やがて日本棋院が設立され、プロ棋士の組織が確立してきた。

1945年、戦後文化果つる世相の中、囲碁、将棋、麻雀、百人一首など
室内遊戯に人々は群がった。
囲碁人口も増え、棋院自体が我が世の春を謳歌していた。
世の中は茶道、華道、詩吟、謡曲などその他の習い事も安泰となった。
会社関係が囲碁に荷担し、碁会所も大流行となった。
囲碁のプロは申し分のない環境に浸った。

1980年代、バブルが弾け、中国からプロ並みのアマの打ち手が
留学とか、就職などの形で日本上陸し、このメンバーがプロの指導碁という
宝庫に食い込んできて、指導碁の相場が急落していった。

当時の指導碁は、橋本昌二先生の場合、
タイトル保持者のときは一日15万。。無冠の九段の時は10万であった。
昨今の九段は?いよいよのところは知らないが。



1990年代、日中スーパー囲碁の頃から中国、韓国にスーパースターが輩出した。
日本は天下の春を徐々に後退し始めた。
21世紀を迎え、日本は第3位に定着していった。

社会状況も変化し、会社の囲碁部は事情が変わって激減し、
テレビは新聞を駆逐し、ネットの碁は碁会所を窮地に落とし込んだ。


2.囲碁界アマの歴史




日本に囲碁が伝来して以来、大宮人、僧侶、武将など上流社会の
一握りの人たちの間で打たれていた。いつしか日本全国に敷衍していったようだ。

振り返ってみると、私は戦後の1945年から本日2017年までの60年間を
この足で囲碁と共に歩み、この実体を体験してきました。

私が囲碁界に首を突っ込んだのは25歳頃。
終戦後の混乱はようやく落ち着いてきた頃である。


特に1970年代から関西棋院宍粟支部長として、
中央のとに繋がりも緊密に囲碁活動を続けてきました。



1986年、「宍粟の碁」上梓の際、囲碁番付を作成しました。
その分析が貴重な文献として
「碁」(盤上ゲーム学者・増川宏一先生著)に記載されました。

その内容は
「職業別にみた割合は教員と地方議員の合計が約4割と著しく高いのが特徴で、
碁が高尚で有力者の趣味という特殊性を色濃くしている。
囲碁人口は2000人の0.5%。」というものだった。

これから類推して、全日本の囲碁人口は500万ということになる。
それが21世紀に入って半値八掛けの200万を切っているようだ。
これを換算して、
宍粟市の1986年の囲碁人口は2000人から800人に減っていると推測できる。

それが中興の祖・「ヒカルの子」で減少に歯止めがかかった。

3.囲碁アマとプロの間 
これからのプロとアマの囲碁界

つまり、プロを取り巻く環境は厳しくなっている。
今では初段は九段に3子の手合いという定説は全て同等の棋力と覆され、
下克上の様相さえ見せている。

関西棋院で入段早々の若手が「結婚出来ない」と苦情を言い始めたと言う。
噂だが、何しろ年収僅か200万が足枷となっているとか。

 果たして指導碁などアマとの接点で、AIはプロを駆逐するか。
プロと共存するか。となると、プロのジャンルはどこに活路を見出すか。

日本のプロ棋士はほぼ500人。漸増の傾向にある。
プロと雖も、アマの総力がこれを支えている。

 アマの囲碁人口は年々激減である。囲碁人口1000万と豪語したのは50年前。
雑誌の売れ行きや、イベント、免状の発行などからして、
今では200万を切っていると定説である。
趣味の多岐に亘るジャンルがどんどん広がっていることも起因しているだろう。



今、「プロになりたい」「アマのままで居たい」が問題になっている。

とにかく、日本の囲碁界はここ50年の間に様変わりをしている。
プロを支えるアマの在り方が変貌してきたことも一因である。
一旦院生になったら、アマの大会には参加出来ない。
つまり、仲間と碁を打って楽しむ機会が失われる訳だ。

昔は、名人とは蘊蓄と言い、棋力といい、少なくとも30歳台にならないと
無理と言われたものが、昨今は10代・20代の若手が君臨している。
それはそれで良いのだが、プロの厳しさは生涯付きまとう。

新しい波はいつの世も押し寄せる。そしていつしか新旧入れ替わる。
なお、敢えて言うなら、ゴルフでもテニス、将棋その他どんな業界でも
「一將成って万卒枯る」世界で、その最強のトップはただ一人であることだ。


4.AI 囲碁の登場は

「問題解決型AI」


1990年に入り、碁の世界で「コンピューターが碁を打つ。でも弱いが定説で、
強くなるのはまだまだ何10年も先のことと誰しも思って疑わなかった。

 ところがAI(人工頭脳)の代表としてAlphaGoの存在を知った。
その舌の根も乾かぬうちに、Master の出現である。

  Masterは2016年12月29日~2017年1月4日の一週間の間にネット碁:幽玄の間で
世界のトップクラスプロ60人を相手に60連勝した。ブッチギリ無敗の強さである。
正月が明けて、このMasterはAlphaGoの更に進化した試験手合いであったことが判明した。

その後も、陸続として強力なAI囲碁が揃って頭角を現してきた。
Zen であり、絶芸であり、この間僅か一年である。

AIの登場はAIの能力を測る試金石で囲碁界を席巻しようという意図ではない。
私のこの推測による判断を裏付ける一文があった。


下記は2017年4月10日号の週間碁に記載された一文である。
「科学技術の観点で、競技のためでない」と喝破している。

この 囲碁界に旋風を巻き起こしたAIは「問題解決型AI」と言われ、
囲碁界では「AlphaGo」「天頂Zen」「絶芸」などが活躍している。



「問題解決型AI」と「感性型AI」

社会のいたるところで人工知能が活用されはじめている。
大規模製造業の現場における製造工程管理、新薬開発、弁護士・税理士、および
人事業務の一部代替など、すでに実用化されつつある応用例は枚挙にいとまがない。

それら人工知能を注意深く見て行くと、ひとつの共通点が浮かび上がる。
いずれも、人間の「理性」を再現したものであるということだ。

世界的に有名なグーグルディープマインドの囲碁AI「alphaGo」は
人間のトップ棋士を凌ぐ演算を瞬時に行い、盤面上の未来を見通そうとする。

IBMの「ワトソン」は人間の言語や質問を理解し、事前に収集・
インプットされた膨大なデータの中から最適な答えを導き出す。

主に人間の脳でいうところの前頭葉の働きを模倣して、
理性を再現しようと開発されたそれら人工知能は、
「問題解決型AI」とも呼ばれている。
問題解決型AIは、人間が到底かなわない速度で資料やデータを読み込み、
過去事例や経験を踏まえて、論理的に人間の判断を支援する。

表現が正しいかどうかは定かではないが、非常に「客観的」かつ「即物的」な
人工知能である一方、近年では人間の精神的な側面を支援する人工知能、
すなわち「感性型AI」の研究が世界各国で進められている。

「問題解決型AI」 は、人間の理性を再現したもの。
さまざまなシーンで、理性はとても役に立ちます。
多くの人は、理性を働かせてビジネスしたり、生活したりしますよね。
そう考えると、人工知能で理性を再現することを優先するのは必然です。


5.AIと産業問題

・・・人類への貢献・・・


 私たちは「AI囲碁は強い」と言っているだけなので、
AIそのものは如何なる存在か、その実体を客観的に把握したい。

今、第4次産業革命が進行中と席巻されている。cf:高野エッセイ534)
まず、産業革命の1次から4次までどのような意味合いがあるのか。

第1次は19世紀のイギリス。 蒸気機関の発明により、
作業が「人手」から「機械」でできるようになった。ポイントは「機械化」です。

第2次は20世紀のアメリカ。電力を使うようになり、
一度に多くのものが生産できるようになってきた。ポイントは「大量生産」です。

第3次は20世紀中盤から後半。コンピュータによって、
指示通りに機械が自動的に動くようになってきた。ポイントは「自動化」。

第4次は21世紀。データ収集・解析技術でAIが自ら考えて動くようになってきた。
「自律化」という言葉が適切かもしれません。



 これを俯瞰するに、

第1次産業革命で、マシーン。

第2次産業革命でマスプロダクション。

第3次産業革命オートメション。

第4次産業革命でオートノモス。

今回はAIが自分で考えて動く自律化(AUTONOMOUS)
例えば自動車の自動運転。建築の自動設計。
特にAI・LOTのあらゆる分野での活用などです。

因みに、日本の上場会社の最高値株価はAI・LOTのキーエンスです。



AI囲碁もその一つで、いま第4回目の大きな産業革命の波に巻き込まれた。
知るや知らずや21世紀になって僅か十数年で
私たちはとんでもない世界に身を置くことになっているのです。

 さて日本の人口は年々減少の傾向にある。現実に社会問題でもある。
ところで、経済は人口と言われる。然らば日本経済は先細りしかない。

 また、経済は資本✕生産性でもある。
今21世紀になってAI・LOTが生産性にどれ程寄与していくかは
計り知れないほど期待は大である。

 つまり人口減少を凌駕して余りあるものがある。
ある意味では日本の将来に燭光を見出したのかも知れない。
但し良いことばかりでは無い。AIは失業の大本となるかも知れないが。


6.自分で学習して動くAI


インダストリー4.0と囲碁界

 折しも2017年1月14日、AlphaGoのことが日経紙上に記載された。
曰く「自ら学んで進化するAIの登場で創造性は人間の特権では無くなった。
当分は人が優位だと思われた囲碁でも、昨年、
韓国のトッププロがAlphaGoに敗れ、世界に衝撃が走った。・・・」と。

 自ら学んで進化するAIのことをMasterことAlphaGoが裏書きしてくれた。



人工知能が囲碁で人間に勝つ

これだけこの世の革命的な変遷
social revolutionのど真ん中に居て、
それを肌で感じていながら、囲碁界から産業界に視野を広めていくと、
今、改めて「自分で学習して動くAI・LOTの経済に及ぼすものの認識は
今からの自分の人生観に大きく変革が起きるだろうと思う。


.人智を超すAI


碁を打つコンピューター



 この環境の下で、2017年3月、ワールド碁チャンピオンシップで
AIと世界のトップ日・中・漢・AIがリーグ戦で戦ったのである。
井山は敗れたが、結果の中身は紙一重で勝敗はまず互角であったとみて良い。

 井山裕太は「負けた碁もチャンスはあったが生かし切れなかった。
今回の経験を生かして、次の世界戦も頑張りたい」と反省した。

 AI代表としてのZen開発チーム代表の加藤英樹さんは
「Zenは短時間で強くなり、自信になった」と話した。



AIといえども、プログラムは人間の創造によるものとはいうものの、
コンピューターの計算スピードと記憶力、記憶との照合のスピードなどは
人間とは比べものになりません。 質の良いデーターが増えれば増えるほど、
またそのデーターのプログラミング、処理能力も更に進化してくるでしょう。
結局、人はコンピューターには勝てません。

 優勝した朴は「Zenに一番苦戦した。」と言った。
AIと人間が一緒に戦えるのはあと5年ぐらいだろう」とAIの進化を認めていた。
5年も経てばAIは人智の及ばぬところへ行ってしまう。ということだ。



 一方、AIとて神様の碁に近づくことは断じてないと思う。
呉清源が「神様と打てば10手で負けてしまうだろう」と言っている。
また、「碁は神様が創ったとしか思えない」とも言っている。

ともあれ現在のプロはすでにAIの碁を学習し始めている。
プロ同士の手合いで、AIの手法のコピーが現れ始めている。
今や「プロがAIに学ぶ時代が来た。


8.世界の囲碁界と

日本の囲碁界の情勢

 

世界の囲碁人口は増えてきた

過去、日本の有志達は囲碁の海外普及に力を入れてきた。
その成果は年々の囲碁人口増加に現れている。



世界の囲碁人口上位は1位中国、2位台湾、3位韓国

 世界中で囲碁を打って楽しむ人々は、約3800万人いるといわれています。
囲碁人口の多い国(10ヵ国)は、①中国(2000万人)、②韓国(900万人)
日本(500万人)、④台湾(60万人)、⑤アメリカ(20万人)、⑥ロシア(10万人)
、⑦ドイツ(5万人)、⑧イギリス(4万人)、⑨オランダ(3万人)、
ブラジル(3万人)、⑨フランス(3万に)、となっています。


但し、業界通では日本はその半分以下の200万人といわれています。

 かといって、世界の囲碁熱はいよいよ盛んである。
欧米もいよいよ実力を付けてきた。もう紙一重のところまで来ている。
今、世界のどこかで一人の天才が生まれたら、全体の棋力を押し上げ層は厚くなり、
世界の状況は一変して実力は世界が均一化されてくることは必死である。

日本の囲碁のランキングはは世界でトップから今日現在では第3位へと
後塵を拝しているのが現状である。


9.ヒカルの碁



起死回生の起爆剤


囲碁界に起死回生のヒカルの碁登場



1996年、朝ドラで「ふたりっ子」が放映された。将棋に打ち込む姿であった。
それに刺激されてか21世紀になって隠し球登場である。


 
2001年、少年漫画で佐為の
「神の一手」を目指す少年の姿が上梓された。

平凡な小学生の少年が天才囲碁棋士の霊に取り憑かれたことで囲碁の世界に巻き込まれ、
「神の一手」を目指す姿を描く作品。

商品の詳細

囲碁漫画は地味になりがちなこと、また動きが碁石を置くだけ等で単調になりがちなことから、
青年誌を含めても皆無に近く少年誌での連載はこれが初めてだった。
結果的に作品が成功したため、棋院自身も『ヒカルの碁』にちなんだイベントを数多く行った。

日本国外でも出版され韓国では『ゴースト囲碁王』、中国では『棋魂』というタイトルである。
その他、タイ、シンガポール、フランス、アメリカなど、数多くの国、言語で翻訳されている。

このように日本国外でも翻訳刊行され、少年少女の囲碁ファンを増やす効果を呼んでいる。

日本では何割かの囲碁人口も増えて、燭光が見えてきた。


 

10.囲碁界の底辺を

広げる運動


日本囲碁界の将来は果たして・・

全世界の人たちが囲碁をゲーム中のゲームとの認識の中、いよいよ囲碁に注目し始めた。
ところが、我が日本では一時よりは持ち直して、漸増中ということだが、
将来について手放しで観取している訳にはいかない。

要は、囲碁人口の増加、底辺の拡大である。




全日本囲碁協会(菊池康郎)が、いま最も力を入れているのが
「囲碁を小・中学校の正課に」をスローガンにした署名活動です。
全国規模で展開し、10万人を目標にしています。



署名運動に御協力いただき、大変ありがとうございました。
お蔭様で11万5687名を以って12月22日、
松野博一文部科学大臣あて陳情をいたすことができました。

全碁協理事長 菊池康郎